第3話 魔法という名の手段

 

 楽しみで仕方がない。早く習いたい。

 ただ、問題がある。

 この世界では七歳になるまで教師をつけてもらえないのだ。



「ところで、母さま。僕は今何歳でしたっけ」

「ほんとに大丈夫、あなた?どこか頭でも打ったのかしら...?」

 すまないね、お母さん。口が裂けても自分が転生者だなんて言えないじゃないか。

「確か三歳のはずよ?」

 三歳!? 三歳でここまで喋れるのか!? この世界子供はどうやら早熟らしい。

 でも七歳まで4年かぁ……長いな。



 それはそれとして、魔法があるのはわかった。

 だが情報があまりにも少なすぎる。

 ここも聞いておこう。

「実は母さま、僕魔法に興味が湧いてきました」

「まあ!熱心でいい子だこと!」

 食いつくだろうな。子供が勉強熱心で食いつかない親がいるわけない。

「そこでなんですが、魔法について教えていただけませんか?」

 途端にシーラの顔に驚きの表情が浮かび、その直後に誇らしげな笑顔を見せる。

「え!? ええ…もちろんですわ!」



 その後色々教えてもらった。

 基本は四属性──火、水、土、風だ。まあ、王道だな。

 なるほど、こりゃすごい。魔法なんてものが存在するなんて、しかもそれを俺が使うだなんて。

「絶対にモノにしてやらぁ」

 そう念じた。



 …………――――――…………



 それからしばらく、俺は遊びながら村の付近の地形や配置を覚えていた。

 なにより驚いたのは視力だ。遠くの細部までくっきり見える。

 チートか? と思ったが、当時は「目がいいだけだろう」と自分に言い聞かせていた。



 ――翌日



 俺はある作戦を決行している。

 ミッション一:目的物の回収・調査だ。

 要は潜入しておるのだよ。

 父の書斎にね……クスクスクス。



 ここは俺にとっては秘密基地兼宝の山になっている。

 まず驚くのは広さだ。

 書斎だけで一軒家一つ分くらいあるんじゃないかと思うほどだ。


 そしてもう一つ、宝の山の理由。それは、魔導書がそこかしこに埋まっているからだ。



 まあとりあえず何か魔法のことが書いてある本でも探そう。

 魔法のことを知った時から、父の後ろに隠れてついて行っては中に侵入し、そこらじゅう徘徊したもんだ。

 だからここの配置は覚えている。



 一つ見つけた。水魔法の書物だ。

 まずは基本のからいこう。

「えっと...

 水の神に我が名を連ね奉る。

 求めるは不純なき純水の玉。

 今ここに顕現せよ……

 “水球ウォーターボール”!」

 手のひらに何かが集まっていく感触がした。

 その直後、手に水が集まっていく。

「おー! すごい!」

 40過ぎたおじさんでも流石にこれには興奮した。

 生まれて初めての魔法に目を輝かせた。



 …………――――――…………



「おいおいおいちょっと待てって!」

 目の前には異常な光景が広がっていた。

 ハンドボールぐらいの大きさだと図鑑には載っているが、嘘なのかと一瞬疑った。


 デカい、デカ過ぎる......!


 俺の出したやつは、瞬く間に部屋の端々まで届くほどの大きさになっていた。


「おっ、もい! もうむりぃー!」

 デカい分重さを支えるための力も必要になる。

 もちろん子供の俺にそんな力はない。

「どうしたシュウ! って何だこりゃあ!」


 父さんが入ってきた。その瞬間びっくりした俺は手を離してしまった。

 ……あ。

 やらかした。



 父の書斎は洪水みたいになっていた。

 家中水浸しだ。

 叱られるな……これ。

「シュウ…これ…これお前がやったのか…?」

 これは流石に温厚な父でも怒るだろうな。


 叱られる時の対処法として最も有効なのは先に謝ることだ。前世の知識よ! さあ今こそ役立て!

「大変! 申し訳ございませんでしたあ!」

 はっきり言った。さあ効果は..

 なんて思っていた時、意外な言葉が飛んできた



「マジかよ……おい、お前天才じゃないか!」

「・・・へ?」

 え? 何で?

「なんてことだ...おい母さん!」

「何よあなたったらせっかちなんだから……」

「いや聞いてくれよ! シュウが――。」

「そ、それは本当なんですの!?」

「ああ本当だ!」

「まあ!なんて素晴らしいの!」

 急に抱きしめられた。いやいいのだぞ?美女に抱きしめられるなんて、前の世界じゃ想像もつかなかったし。



 ただ、一体なぜだ? なぜ怒られない?

 いや、そもそも何であんな巨大になるのだ!

「父さま申し訳ございません! 大事な書斎を水浸しにしてしまって……その……少しお聞きしてもいいですか?」

「あぁ! どんと来い! 何でも答えてやるぞ!」

 だいぶご機嫌なようで何よりだ。もう怒られることもないだろう。

「……なぜあれほど大きいものが出来たのですか?」

「ああ、いや、まだ知らないのも無理はないか」

 ブラインが、なぜか神妙な顔になっている。


「実はな、魔法ってのはその使用者の魔力量に比例するんだ。」

「へえ、そうだったのですね。知らなかったです」

 ああ、そういう事か。



 なぜ親が喜んだか、それは俺の魔力が多いからだ。

 なるほど、これが俺のチートなのか…むふふん。

 詰まるところ、俺には魔法の才能があるのだな! 無詠唱とかいうのも出来るのかな……出来たらやっぱり重宝されるのか?

 やはり魔法には夢があるぜ。



 …………――――――…………



 そんなこんなで長い年月が経った。


 それからというもの、俺は書斎を自由に行き来していいと言われたので、入っては魔導書を探して試している。

 その度にちょっとした災害じみたことをしてしまったが……そんなことはとりあえず置いておいて、一応、全ての属性は初級までできるようにはなった。


 今年で俺も7歳だ。この世界では7の倍数の年を節目として、その年は盛大に祝う風習がある。何とも不思議な伝統だ。



 そういうことで、ついに俺にも師匠がつくことになった。どんな奴が来るのだろう。できれば可愛い女性キャラがいいなぁ……なんてな。

 ドン、ドン、ドン

「すみませーん、誰かいらっしゃいますかー?」

 子供みたいな声だ。

「はーい、今行きまーす」

 と言ってお母さんがドアを開ける。


 …………ほう。


 ドアの前に立っていたのは小柄だが凛とした娘だった。

「はじめまして。教師として参りました。リリィ・スフィローゼと申します。以後お見知りおきください」


 リリィ師匠か――いい響きだ。


 見た目は……子供より少し大きいぐらいの身長なのに、表情、仕草、口調……どれを取っても大人びている。ただし、声だけは子供だ。

 無邪気さと凛々しさをあわせ持った、不思議な魅力がある。

ま、まさかこれが真の合法幼女か! ホウホウ……。

 ニヤニヤしてたのか、一瞬、怪訝な顔をされた。


「うちの子ちょっと魔力量が多いの。だから心配せずに叩き込んであげてください!」

「………? あぁ……はぁ…わかりました」

 い、いきなりため息だと!?

 まさか、親バカだと思っているのか?

 なんのー! ふざけやがってー!

 絶対にギャフンと言わせてやる。

 そう心に決めた。



 …………――――――…………


 母日記

「今日から可愛い息子ちゃんのために、日記をつけることにします。それにしても、ついに今日ウチの息子が七歳になりました。なんとも感慨深いです。そして、シュウが待ち望んでいたみたいだけど、今日から家庭教師も雇うことにしました。いつか立派な魔術師になることを願っています」


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