第45話  「悪魔の儀式」


「"生け贄の儀式"ですよ…

   喜んで、その身体を捧げなさい」

 


ホログラムが切れた・・・


円卓の照明が、黒崎の席だけを切り離した。

端末は強制シャットダウン。アクセス権は剥奪。


誰も、彼を見なかった。

誰も、彼を庇わなかった。


「ヴェクスモア……カリグラ……俺を見ろよ……!

俺が東京に再生を与えたんだ……!

俺が、東京を…!

なのに……誰も、俺の話しを聞かないのか……?

俺が、俺が、俺が――!!」


その時、扉が静かに開いた。

黒いスーツの男が一人、無言で歩いてきた。

手には、銀色の端末。

そこには、ただ一つの命令。


【KZK-000:排除対象】

【状態:実行中】


黒崎は、泣き叫んだ。

「やめろ……やめてくれ……俺はまだ、演出できる……!

俺は、都市の神だ……俺は……!」


男は、無言のまま端末を閉じた。

そして、


黒崎の額に――何かを向けた。


音は、なかった。


ただ、空気が一瞬だけ震えた。


黒崎透は、静かに崩れ落ちた。


その顔には、笑みが残っていた。

だが、それは


  ――壊れた演出者の仮面だった。


円卓の照明が、再び均一に戻った。

誰も、彼の名を口にしなかった。

誰も、彼の死を記録しなかった。


都市は、彼の名を記録から外した。

その声を、ノイズとして処理した。

インペリウムは、彼の存在を“演出の外”に置いた。

そして、都市は――彼なしで語り始めた。



———某国施設地下9階


オーバーサイドの黒服が2人ドアの前にいた

「失礼します。マルドゥクCEO。

ヘリの移動の準備ができました。」


「入りなさい」


黒服がドアを開け入ると、マルドゥクが

深く椅子に座り壁の絵を眺めていた

「失礼します。マルドゥクCEO。

黒崎透は、完全に削除されました」


「ふっふっふ…当たり前ですよ。


その昔…、いましたよ


  同じように、言う事を聞かない

   お馬鹿な、日本人が…」



——マルドゥクの不気味な空気が

部屋全体を覆い尽くしていた…。

     



■東京・SYNAPSE-33作戦室


―2021年8月4日 16:40(JST)


大型モニターが、突然切り替わった。

画面には「速報」の赤い文字。

その下に、ニュースキャスターの硬い表情。


 「速報です。東京地検特捜部は、

  元都市構造顧問・黒崎透氏が本日未明、

   自宅で自殺したと発表しました。

    遺書は見つかっておらず、

     詳細は現在調査中とのことです」


作戦室の空気が、凍りついた。


龍が、椅子から立ち上がった。

「……は?」


カヲルが、モニターを見つめたまま呟いた。

「自殺……?」


天城が、端末を操作しながら言った。

「RAZEEMのログ、消去されてる。

思想感染逆流の痕跡も、都市の拒絶記録も

――全部、編集されてる」


龍が、声を荒げた。

「マジかよ!? なんで“自殺”なんだよ!!」


カヲルが、静かに言った。


「マルドゥク……」


天城が、すぐに応えた。


「間違いないな。

報道は、インペリウムが“編集”してる。

都市が叫んでも、現実は“演出”され続けてる。

マルドゥクが、黒崎を消した」


龍が、拳を握りしめた。


「じゃあ、

――また、塞がれるのか?編集…」


カヲルは、目を閉じて言った。


「違う。

東京は、もう“編集される側”じゃない。

東京、日本は、

今――“編集する側”になろうとしてる」


天城が、端末に田辺のログを再投影した。

そこには、都市の再起動時に記録された

“叫び”が残っていた。


「よ〜〜しっ!!突入だ。まずは、MED・・」


「了解!!!」


龍は、モニターのノイズを見つめた。

そこには、都市の“声”が微かに震えていた。

「都市は、もう一度、叫ぶ。

今度は――

——奪還する!!」


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