第7章  認知戦

第31話  「反撃の始動」


天城が、ゆっくりと立ち上がる。


「……藤崎サヤ・ヴァレンティナ。

あの女は、“思想感染”のフロントじゃねえ。

“秩序の再設計者”の一味だ。

そして黒崎も、その“執行者”だ」


天城は、ゆっくりと背を向け、

モニターの光に照らされた壁を見つめながら、

低く呟いた。


「……そうか。なるほどな

遂に東京に来たってわけか」


龍が顔を上げる。

「……え?」


天城は、振り返らずに言った。

「いいか、インペリウムが、動き出したんだよ。

この東京、いや日本に、

間接的じゃない、

直接介入してきたってことだ」


田辺が息を呑む。

「マジっすか……」



天城は、口元にわずかな笑みを浮かべた。

その笑みは、戦場を前にした兵士のような、

静かな興奮に満ちていた。

「おもしれぇじゃねーか……

“虚構の秩序”ってやつを、ぶっ壊してやるよ」


天城は、ゆっくりと振り返り、

部屋にいる全員を見渡した。

その目は、すでに“戦いの指揮官”のそれだった。


「イリス」

白衣の女が、すっと背筋を伸ばす。

「お前は、都市圏の“生体共鳴マップ”を再構築しろ。

インペリウムが仕掛けてくるのは、感情帯域の撹乱だ。マインドコントロールだ。

市民の“判断力”を奪われたら、こっちの負けだ。

共鳴値の異常をリアルタイムで

検出できるようにしておけ」

「了解」


「カイト」

黒いフードの男が、無言で頷く。

「お前は、都市の“裏層”を洗え。

インペリウムが使うのは、表じゃない。

地下鉄、廃線、旧通信網、放棄されたデータノード……

奴らは“見えない場所”から侵食してくる。

空間周波数の歪みを検出しろ。

必要なら、遮断して構わん」

「了解。“東京の影”は、俺の庭だ」


天城は、龍の方を向いた。

「龍。お前は……引き続き、自分の店に戻れ」


「えっ……俺は、ここで何か手伝えること――」


「違う。お前の店は、都市の“感情交差点”だ。

あそこにいるだけで、情報が集まる。

誰が来て、何を話し、何を隠してるか。

お前の直感は、もう“こっち側”にある。

それを使え。

“見えない感染”を見抜けるのは、お前だけだ」

龍は、息を呑んだ。


自分が“戦場の一角”を任されたことを、

ようやく実感する。

「……わかった。戻るよ。

あの場所で、目を開いてる」


天城は、最後にカヲルを見た。

「カヲル。お前は、俺と田辺と一緒に動け。

《SYNAPSE-33》の“起動条件”が揃った。

都市意識との同期を開始する。

思想感染の逆転、記憶の再構築、

秩序の再起動――

全部、やるぞ」


カヲルは、静かに頷いた。


その瞳には、かつての“美容室のアシスタント”の面影はなかった。


「了解。

33コード、展開準備に入ります」


巨大なモニターに、

東京の都市マップが浮かび上がる。

赤く点滅する帯域。

歪む共鳴値。


東京が、静かに“感染”していく。


都市全体を覆い尽くす

マインドコントロールの足音



だが、その中心に――

“目覚めた者たち”が立っていた。



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