第26話 「セッションと侵入」


「この端末は、都市のノイズを

“不要な感情”として排除し、

個人の意識を“構造に適合”させるために

設計されました。

AIによる感情同期、記憶の整理、そして

――集合意識との接続を可能にします」



龍は眉をひそめた。

だが、まだ“確信”には至らない。

言葉は抽象的で、

どこかスピリチュアルな

響きすらあった。


「この端末は、

すでに複数の都市でテストされており、

被験者のストレスレベル、

判断力、共感性において顕著な改善が

見られています。

これは、都市そのものの“感情インフラ”を

再設計する第一歩なのです」


(……感情インフラ……?それってマインドコントロール?)

(都市の感情が統合されると、個人の“違和感”は排除される……?)


龍の中で、何かがざわつき始めた。

「そして最後に、本プロジェクトの

技術監修を務めてくださった、

ノクス・コレクティブ日本支部代表

――ハーグリーヴス・ユウキ氏をご紹介します」


「……え?」


壇上に現れた男は、

黒いスーツに身を包み、無表情のまま歩いてくる。

若い。だが、その目は冷たい。

“人間の温度”が欠けていた。


(……博士、死んだはずじゃ……?)

(これは……誰だ?)


スクリーンには再びロゴが映し出されていた。


Project MORPHEUS

Developed by NOX COLLECTIVE JAPAN



(……NOX……)

(……ノクス・コレクティブ……)

(……マジかよ……)



心臓が跳ね、手のひらに汗が滲む。

背中に、氷の刃を滑らせたような感覚。


■セッションと侵入


講演は終盤に差し掛かっていた。

会場は静かに熱を帯びている。

誰もが“何かを信じ始めている”顔をしていた。


龍は、椅子の背もたれにそっと体を預けた。

だが、心は休まらなかった。

この空間の“設計”が、あまりにも精密すぎる。


(……ここにいる全員、選ばれてる)


「龍さん」

「……はい」

「このあと、少しだけ

特別なセッションがあるんです。

よかったら、参加してみませんか?」


龍は、笑顔を返した。

「……もちろん」


だが、その笑みの奥で、

彼はすでに“逃げ道”を探していたが、

逃げられない、何かが身体を覆った。


セッションは、静かに終わった。

龍は、何を見たのか、何を感じたのか――

それを言葉にすることができなかった。


ただ、意識の奥に“誰かが触れた”感覚だけが、

じんわりと残っていた。

夢の中で、誰かと会話したような残像。


自分の記憶が、

誰かの手で静かに撫でられたような感覚。


それは優しく、

だが確実に“自分ではない何か”だった。


(……俺の中に、誰かがいた)


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