第10話 ずれ

やっと終わったか……


1日の授業は午前と午後の2時限構成だ。それぞれ2時間づつの、計4時間が1日の授業量になる。時間的には短めだが、学んでいるのが魔法関連だけと考えればこんなもんである。何科目もある日本の高校なんかとは違う。


昼休みはエーコ、ビーミと一緒に食事をとった以外は、特に人とは関わっていない。あのメイン6人も含めて。そもそも気にしなければならないのは勇者だけだし、序盤に出来る事はほぼ無いから当然だ。


「まだ席についているように」


授業終了の鐘と同時に、理事長と副園長が教室に入って来て皆にそのままでいる様に促した。俺はその状況に眉を顰める。何故なら、初日の授業後にこんなイベントなど無いからだ。


どういう事だ? 何か俺の把握していないイベントのスイッチが入ったのか?


けど、学園内での行動は最小限に留めている。なにかフラグを建てたとは思えないのだが……


「ヴァネッサ君は前に出てきなさい」


理事長に呼ばれる。俺をピンポイントで呼んだって事は……ひょっとして表彰か?


午前のやり取りで、俺は学園から表彰を貰える事になっている。だがゲームだと、表彰は翌日に行われるイベントだ。なのでタイミング的におかしい。しかしそれ以外で、理事長がヴァネッサを呼ぶ理由が思い浮かばないのもまた事実だ。


「あの、ヴァネッサ様……」


「問題ないわ」


心配そうに俺を見るエーコとビーミに、とりあえず動揺を隠したすまし顔で応え、教壇へと向かう。その途中——


「はっ、退学でも言い渡されるんじゃねぇか」


ダンが嫌味を言ってきたが無視。こっちは知らないイベントに面食らっているのだ。一々こんな奴に気を割く余裕はない。


「お呼びでしょうか?理事長」


「うむ。君に礼を言おうと思ってな。この魔法学園を代表して」


理事長の言葉に教室がざわつく。どうやら表彰であっていた様だ。びっくりさせんなよ……いや、ビックリですませていい問題じゃないな。理由の分からない早送りは警戒すべきだ。これからも同じような事が起これば、スケジュール管理に問題が出て来かねない。


……それに、タイミングの差異だけでは済まない可能性もあるしな。


「ヴァネッサ君。君のお陰で我が学園の建物の強度。それに管理体制が――」


理事長から何故表彰されるのか、その理由がつらつらと並べられる。午前中に此方が並べた理由に、ちょこちょことプラスされた内容だ。


「君のこの学園における貢献は大きい。よってここに、ヴァネッサ・デス・ロードを

表彰する物とする」


「謹んでお受けします」


理事長から表彰状を受け取る。そしてまばらな拍手。元々人数が少目というのもあるが、そもそも拍手率自体が高くない。まあそりゃもっともらしい理由をつけてはいても、どう考えても校舎壊して表彰はないだろって普通は思うからな。なので、今拍手してるのはヴァネッサの御機嫌取り、もしくは睨まれたくない奴らの物だ。


「以後も学園の規範となる事を期待している」


「お任せください」


もちろん規範になる様な行動をする気はない。そんな事をしたら、無駄に全体評価が上がってしまうからな。流石にこの場でノーというのは憚られるから、イエスと答えただけである。


しっかし……ほんと、なんでタイミングがずれたんだろうな。検証できればいいんだが、ゲームじゃないからな。セーブロードが出来ないのは本当に不便だ。とにかく、これからは、ずれが起こりうる前提で行動戦とな。

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悪役令嬢おじさん、貞操を守るべく悪役ルートでいく~破滅は論外。改心して誰かに嫁いで子作りも勘弁。こうなったら王子に嫌われつつ結婚するしかない!それなら仮面夫婦でいけるはず~ まんじ @11922960

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