メチャ・ツヨスギール!お前をこのパーティーから追放する!

テマキズシ

メチャ・ツヨスギール!お前をこのパーティーから追放する!


 冒険者ギルドの酒場。そこで沈痛そうな面持ちをしている四人の人影がいた。


「メチャ・ツヨスギール!お前をこのパーティーから追放する!」


「そ、そんな!? なんでなのヤサ・シスギール君!! 僕達幼なじみじゃないか!!」


「……………そんなの決まってるだろ」


 ヤサ・シスギールと呼ばれた大剣を持った剣士は、麦酒の入った樽のグラスを全力でテーブルに叩きつける。


「お前が!!! 強すぎるからだよおお!!」


「「そうだーそうだー!!」」


 彼の言葉にパーティーメンバーの二人。魔法使いと盾使いが賛同する。

 そして酒の勢いに任せて愚痴を言い始めた。


「この前アルティメットドラゴンが街に現れた時、俺達は逃げるしか無かったのに一人で挑みに行ってボゴボコにしちゃってるじゃん!」


「私のメガファイアーがまるで効いていなかったリッチ相手に、ファイアーで炭に変えちゃってるし!!」


「おいどんじゃ防ぎきれなかった、トロールキングの一撃が直撃しても傷一つないでごわした!!」


「そ…それは……」


「それにこれ見てみろ!!」


 ヤサ・シスギールはそう言って自信の胸元を指差す。

 そこには黄金に輝く【A】と書かれたバッチがあった。


「俺達全員!!! 実力クソ雑魚なのにA級冒険者に認定されちゃったんだぞ!?」


「ギルドの後輩達にキラキラした目で見られるの…辛い」


「分かるでごわす……」


「う……。でも、僕どうしても自信がつかなくて……」


 メチャ・ツヨスギールがこんなに言われても自信がつかない理由。それは過去に両親からの虐待があったからだ。

 まだドラゴンの牙が刺さる弱い体をしていた時。何度も何度も罵声を浴びせられてきた。


 罵声は心を蝕み、いつしかメチャは自分に価値がないと、生きている価値はないと、そう思うようになっていた。

 その事を幼なじみとして育ってきた三人は見抜いていたのだ。


「……僕は、怖い。…怖いんだ。自信を持ってしまうことが。……自信を持ったら調子に乗っていつか失敗する。そう思ってしまうんだ」


「……メチャ」


「で、でも皆と一緒にいると安心するんだ!

皆といると勇気が湧いてくる。だ、だから…これからも一緒に「このまま進めば俺達は死ぬ」…っ!」


 真剣な顔で、三人はメチャの目を見る。その目はどこか悲しそうで、メチャの心に深く刺さった。


「分かっているだろ。俺達は限界だ。どれだけ優秀な装備を持っていても限界が来る。次の冒険には耐えられない」


「……正直盾を持つこともキツイでごわす」


「そ……それは」


 全身が震える。薄々勘付いていたことを事実だと話されてしまい、動揺が隠せない。


「……メチャ。お前は、自信を持っていいんだ。……そうじゃなきゃお前は、一生成長できないぞ」


「…それにね、私は二人と違ってきつく言うけど。貴方の行為は私達を殺そうとしてると言われても過言じゃないのよ」


「…………ッ!」


 魔法使いの言葉に、メチャはハッと顔を上げる。その通り、その通りだ。そう心の中で思うことはできても、一人で頑張ると、心からいうことができない。


「……ごめん。…ごめんっ! 分かってるんだ。…でも、僕はこの言葉を口にすることができない」


 涙が溢れ、止まらない。両親の罵声が頭の中で反響し、恐怖で動けなくなる。息が次第に荒くなった。


「……なあメチャ。お前は俺の、俺達こと、信じれるか?」


「……え? う…うん。当然だよ」


 当然だ。三人は僕をあの地獄から助けてくれた恩人。

 この世界の誰よりも、信頼できる存在だ。


「ならよ。信じてくれ。…お前は強い。誰よりも強い。最高の冒険者だって」


「…………ヤサ君」


「そうそう私達が断言したげる! メチャ君ならS級冒険者に…いや、その先のSSS級冒険者にだってなれるよ!」


「うおおおおおおおお!!!! その通りでごわす!!!! メチャ殿なら絶対になれるでごわすよ!!! 我らが憧れた!!! 教科書に載るような英雄に!!!」


「み……皆」


 皆からの激励に、メチャは固まる。

 嬉しかった。皆からそこまで認められていたのだと、自然に笑みがこぼれた。


 頭の中では、まだ両親の罵声が聞こえてくる。でも、ここで動かなかったらそれは皆の期待を踏みにじる行為となる。

 恐怖の中、僕は思いっきり席を立ち、宣言した。



「なる!! 僕ばなるよ!!! 皆がみどめるような!!! さいごうの…冒険者に!!!」


「よ〜しよく言った!!! 応援してるぜ親友!!!」


「涙と鼻水でぐっちゃぐちゃだけど、…今までのどんな時よりもいい男になったじゃない」


「うおおおおおお!!!!! メチャ殿の勇気に乾杯!!!!!」


 こうして僕は、パーティから追放された。












 始まりの地と呼ばれる場所がある。


 世界中で猛威を振るう魔物達に対抗するため冒険者ギルドが生まれてから二千年。数多の冒険者達にとって始祖とも呼ばれている原初の冒険者。エソレ・ハツヨスギが生まれた地。


 そこで遂に、歴代で三人しか誕生していない伝説のSSS級冒険者に四人目が生まれようとしていた。


「では、メチャ・ツヨスギール。前へ」


「はい」


 エソレ・ハツヨスギの像がある巨大な広場。

 その中心部には数十もの国の王族達。そしてメチャ・ツヨスギールの姿があった。


 長々と演説が続く。本来なら演説なんぞ面倒くさいことと思われがちだが、今回だけはそんな事はなく、むしろ熱が生まれていく。


「〜〜となった。では今日、この時をもって、メチャ・ツヨスギールをSSS級冒険者に認定する!」


「「「ウオオオオオオオオオ!!!!」」」


 広場中に歓声が広がる。こうして、この長い人類史に新しい歴史が生まれた。






「…………おや。どこかに行くのですか?」


 SSS級冒険者の就任会を終え、祝賀会を皆が楽しんでいる中、メチャ・ツヨスギールは身支度をしていた。


「……ええ。ずっと帰っていなかったですから。地元に顔を出そうと思いまして」


「そうですか。それは私としてもうれしいですね」


 メチャに話をしたこの男の名はギル・ドノシブチヨー。メチャの地元のギルド支部長であり、あの三人含めた全員にA級の称号を与えた人物だった。


「……支部長。今だから聞くんですが、あの日僕達のパーティーにA級冒険者の称号を贈ったのは、僕を追放するためじゃないんですか?」


「…ええ。その通りですよ。そうでもしないとあの三人は死んでしまう危険性がありましたからね。…なにより君は依存のしすぎだった。もし彼らの内誰かが死んだら、君は自殺するであろう程には」


「やっぱりそうだったんですね。でもどうして? 何故そこまでして僕に目をかけてくれたんですか?」


 不思議そうに問うメチャに、ギルは辛そうに返事をした。


「君の両親はね、私の友人だったんだよ。だからずっと悩んでいた。君が虐待されていたことを知った時、何で気づいてやれなかったんだとね」


「そう……だったんですね。驚きました。あの二人に友人がいたんですね」


「ああ。外面はいい奴らだったからな」


 どこか懐かしそうに、ギルは外を見上げる。

 そしてメチャに向かって頭を下げた。


「本当に…済まなかった。君が虐待されていた事に、私は気づけなかった。大人として子供を助けられなかったこと。ずっと悔やんで生きてきた」


「いいんですよ。おかげで僕は、親友達に出会えましたから」


 あっけらかんと、メチャは言う。あまりにもサッパリというのでギルは呆気にとられてしまった。


「親友達のおかげで、僕は今ここに居ます。だから伝えに行かないと。僕は自他共認められている最高の冒険者になったって」


「…そうか。そうか。彼らに会いに行くのですね。それなら二つ。聞いてほしいことがあるんです」


「聞いてほしいこと?」


 ギルは先程までの空気感を全て取っ払ったような、悪戯小僧みたいな笑みを浮かべだす。そして指を二本立てた。


「まず一つ。君がSSS級になった事は三人に知らせていない。驚かせてやりなさい」


「支部長…。貴方本当に悪戯ずきですね」


「悪戯は楽しいからね! …さて、もう一つについてなんだがね」


 ギルはケラケラっと笑う。だがもう一つの話をするとなった時、彼の顔は優しげな顔に変化した。


「あの三人は才能が無い。控えめに言って弱い冒険者だ。……けれど私は、彼らの事を真に優秀な冒険者だと、そう思っているよ」


「……支部長」


 その言葉を聞いたメチャは静かに笑う。

 心の底から嬉しそうに、まるで子供に戻ったような、明るい笑みを浮かべた。


「僕もそう思います。あの三人は僕の知る限り、誰よりもカッコいい冒険者です」












 辺境の地。ココイナカ村は付近に珍しい薬草が生えることから、村の割にはそれなりに大きい規模を誇っている。

 最大の特徴はモンスターが弱い事。だから新人冒険者達の教育に使われていた。



「お、ま、え、ら、は、バカかあ〜〜!!!」


「「ぎゃあああああ!!!」」


 新人の冒険者二人が勢いよく頭をどつかれる。彼ら二人はゴブリンを弱い魔物と侮り、ボコボコにされてしまったのだ。


「いいかバカ共! 弱い魔物なんていねえ! どんな魔物にも特技があるんだ! ゴブリンは頭が良くて、敵には絶対複数で挑みに来るんだぞ!!」


「うっ、ごめんなさいヤサ教官」


「調子に……乗りました」


「ごめんで済んだら冒険者の死亡量は増えてねえ!!!」


 ヤサ教官と呼ばれた彼は、万年D級冒険者だが経験豊富で、ギルドから頼まれてこうした新人達の教育を行っている。



「はい。じゃー今日は灯魔法の使い方を教えていくわよ〜」


 ヤサ教官のパーティーメンバーの一人。魔法使いと盾使いも同じだ。

 二人は新人の冒険者達に魔法を教えている。


「え〜。何で俺達魔法使いじゃないのに魔法覚えなきゃいけないんですか〜!」


「……はぁ。いい? こういった魔法は確かに魔法使い一人が覚えてればいいっていう風潮があるわ。でもね魔法使いは魔法で戦うのが基本。それなのにこういった魔法まで使ったらすぐに魔力が尽きちゃうじゃない。だったら魔力をそんな使わない人が覚えたほうがいいのよ」


「はえ〜」


「…………はぁ」


 まだよく内容を理解していない冒険者達に魔法使いはため息をつくと、側にいた盾使いを呼び出した。


「それに他にも使い道はあるのよ。ほらそこのガキンチョ。このバカと模擬戦しなさい」


「うおおお!!! おいどんの出番でごわすな!!!」


「胸を借りるつもりで挑みます。ただ…倒してしまっても構わんのだろう?」


 妙にイキった口調で新人の冒険者は盾使いに斬りかかる。刃を潰した模擬刀だがその威力は確かなもの。

 盾使いに対し、死角を突く立ち回りで一瞬め接近する。


「……フン!!!」


「なに!?」


 盾使いは灯魔法を放つ。斬りかかろうとした新人はその光で目がくらみ、動きを止めてしまった。そこに盾を構えた盾使いが突進する。


「ぎゃあ!!!」


「ふははははは!!! おいどんの勝ちでごわすなあ新人!!!」


「なーいす。ま、こんな感じだね。こういった小技もできるようになる。どんな魔法も使い方で化けんのよ。分かったらさっさと勉強勉強」


 魔法使いはパンパンと手を叩いて新人達にそう言うと、新人達は一斉に魔導書を読み始めた。その変わり身の速さに魔法使いはまたため息をつきそうになる。


 盾使いは吹っ飛ばした新入りに回復魔法をかけていた。これは次の授業で教えよう。

 そんな事を考えていると、教室の扉からヤサ・シスギールが現れた。


「お〜いお前ら。なんか俺達に客が来たらしいぞ」


「今授業中だから断っといて〜」


「あ、それは他の人が変わりにやってくれるらしい。なんでも結構大事な話なんだとか」


「ええ〜。はぁ…。しょうがないわね」


 盾使いと魔法使いを回収したヤサは、客が待っているらしいギルドの来賓室へと向かう。


「来賓室って…。絶対に大物よね。私達何かやらかしたかしら…」


「ははははは!!! 案外この前の冒険の事でお褒めの言葉を頂けるのかも知れないでごわすよ!!!」


「あん時はどっかのバカが罠を起動させちゃったせいで大騒ぎになったじゃない!」


「お前ら落ち着け! ほらもう着いたぞ!」


 二人の喧嘩を宥め、来賓室の扉を開ける。



 そこには三人の親友が、堂々とした面立ちでこちらを見ている姿があった。

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