第20話B 帰還と予感(下)

その夜。


施術を受けた者も、受けなかった者も――

それぞれが、穏やかな表情をしていた。


三人は、温かいお茶を飲みながら、ゆったりとした時間を過ごす。


「……ねえ、ユージ」


一人が、俺に声をかける。


「ん?」


「今日、ありがとう」


「どういたしまして」


他の二人も、微笑んでいる。


俺が淹れたお茶を飲みながら、四人でゆったりとした時間を過ごす。


窓の外、月が昇り始めていた。


(みんな、笑っている)


(それだけで、十分だ)


 リーネ淹れてくれたお茶を飲みながら、四人でゆったりとした時間を過ごす。


 窓の外、月が昇り始めていた。


 ◇


 しばらくして、リーネが欠伸をした。


「ふにゃ〜……眠くなってきたにゃ……」


「そろそろ寝るか」


「はいにゃ〜」


 セレスも立ち上がる。


「私も、お休みさせていただきます」


「うん。おやすみ、セレスさん」


 ミナが手を振る。


「おやすみにゃ〜」


 リーネとセレスが、寝室へと向かう。


 残されたのは、俺とミナだけ。


「……ユージ」


「ん?」


「あたし、お茶もう一杯飲んでいい?」


「ああ」


 ミナが、俺の隣に座った。


 二人で、静かに月を見上げる。


「……綺麗だね、月」


「ああ」


「ユージは、月、好き?」


「まあな。静かで、落ち着く」


「あたしも」


 ミナが、小さく微笑んだ。


「ユージと一緒に見る月は、もっと綺麗」


「……そうか」


 俺は、ミナの頭を撫でた。


「ありがとうな、ミナ」


「何が?」


「お前がいてくれるから、俺は頑張れる」


 ミナの耳が、嬉しそうに立った。


「……あたしも」


 ミナが、俺の手を握る。


「ユージがいてくれるから、あたしは頑張れる」


 その手は、温かかった。


 ◇


 そのとき、窓の外で何かが光った。


「……ん?」


 俺は窓に近づく。


 遠く、街の外――森の方角に、淡い光が揺れていた。


(……何だ、あれは)


 左手の甲が、かすかに熱を帯びる。

 ルナリアの紋章が、淡く光っている。


(……新しい何かが起こるのか?)


 だが、今はまだ――。


「ユージ、どうしたの?」


 ミナが、心配そうに俺を見上げる。


「いや、何でもない」


 俺は窓から離れ、ミナのもとへ戻った。


「さあ、もう遅い。寝よう」


「……うん」


 ミナが立ち上がる。


「でも、ユージ――」


「ん?」


「何か心配してるでしょ」


「……バレたか」


「当たり前だよ。ずっと一緒にいるんだから」


 ミナが、俺の手を握った。


「でも、大丈夫。今度は、あたしたちが――ユージを守るから」


「……ミナ」


「だから、一人で抱え込まないで」


 その声は、優しかった。


「ああ。ありがとう」


 俺は、ミナの頭を撫でた。


「おやすみ、ミナ」


「おやすみ、ユージ」


 ミナが寝室へと向かう。

 扉が閉まる前に、振り返って微笑んだ。


「……大好き」


 小さな声。


 扉が、静かに閉まった。


 ◇


 深夜。


 三人が寝静まった後。

 俺は一人、窓辺に立っていた。


 掌のルナリアの紋章を見つめる。

 淡く光り、脈打っている。


(……ルナリア)


 女神の警告が、胸の奥で囁いた。


 『癒やすたびに、あなたの魂も削れていく』


 ソウル・トランスファー。

 癒やしの禁術。


(……分かっている)


 だが――。


(それでも、俺は進む)


 窓の外、月が輝いている。

 街は静かに眠り、白い霧が流れていた。


 遠くの森から、また光が揺れた。


(……何かが、来る)


 予感が、背筋を走る。


(だが、恐れはない)


 振り返ると、寝室のドアが少し開いていた。

 ミナが、こちらを見ている。


「……ユージ、まだ起きてるの?」


「ああ。少しな」


「……あたしも、眠れなくて」


 ミナが、俺の隣に立った。


「ユージの隣なら、眠れる気がする」


「そうか」


 ミナが、俺の袖を掴む。


「一緒に、寝よ?」


「……ああ」


 二人で、しばらく月を見上げた。


(次の波が来ても――俺には仲間がいる)


(ミナ、リーネ、セレス――そして、待っていてくれる街の人々)


(だから――大丈夫だ)


 月が静かに輝いていた。

 白い光が、ユージ堂を優しく包んでいた。


(明日からも、俺は――誰かを癒やし続ける)


(それが、俺の生きる道だから)


 ミナの手が、俺の手を握った。


「……ユージ、ありがとう」


「何が?」


「あたしたちを、癒やしてくれて」


「……こちらこそ」


 俺は、ミナの頭を撫でた。


「お前たちがいてくれて、ありがとう」


 ミナが、小さく微笑んだ。


「……おやすみ、ユージ」


「ああ。おやすみ、ミナ」


 二人で寝室へと向かう。


 長い一日が、終わろうとしていた。


 だが――これは、終わりじゃない。


(新しい物語は、また明日から始まる)


 窓の外、遠くの森で光が揺れていた。


 それは、次なる冒険への予兆――。


 〈第20話B 完〉

 【第2章・完】


【次章予告】


 平穏な日々の中、ギルドの受付嬢カレンから不穏な報せが届く。

 火山のダンジョン〈魂喰いの山〉で、冒険者パーティが消息不明に。


「……グレイフェザー、にゃ……」


 それは、かつてリーネが共に戦った仲間たちだった。


「会いに行きたい。今度は、逃げないにゃ」


「なら、行こう」


 悠司の即答に、ミナとセレスも頷く。

 癒やし手たちは、死霊が彷徨う火山へと向かう。


 ――第3章 死霊の迷宮編

 第21話「旅立ち」

 おじさん、新たな冒険へ。


 ◇◇◇

 作者からのお願い。


 ここまで読んでいただいてありがとうございました。


 よろしければブックマークと応援、そしてレビュー【☆☆☆】の方、何卒よろしくお願いします。これから物語を続けていく上でのモチベーションに繋がります。

 コメントも頂けると、深く礼をします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る