̄-_寝る前スマホでネットサーフィン_- ̄

Chill_

第1話 おやすみ世界戦争

AM1時、俺は布団に入る。社会人、男。歳は二十。


今日あった事を振り返る。まず、

今日、朝に起きて、成人式だった。

電車に乗って、駅で降りて、成人式に行く途中、俺は、スーツを着て来る事を忘れた事に気が付いた。

いつもの黒色スウェットにモコモコ裏起毛のファー付きの上着を羽織って、靴は適当、何足かある俺の靴のどれかを履いて、出て来たんだった。

会場前のどっかで俺は待ち合わせをしていて、俺の親友ナカバヤシが俺のスマホにもう着いてるぞと連絡を寄越したから、俺は渾身のギャグのつもりでスウェットで来た、と返信した。

そしたら、返信が来る前に俺は待ち合わせ場所に着いて、俺に気付いてないナカバヤシに手を振ろうとした瞬間、


ナカバヤシの頭が吹っ飛んだ。


俺は、目の前の出来事に意味がわからず、時が止まった。

ナカバヤシの首から血がブシャア、と吹き出し、スウェットで来た俺を見ることもなく、渾身のギャグのそれに笑う事もなく、ナカバヤシは昼前の朝の天気の良い道路で死んだ。

手を振ろうとしていた右手をゆっくり降ろしながら俺はその場に立ちすくんでいた。


そして直ぐに、通行人達の『うああああ!』『ギャアアア!』という叫び声が響き渡る。

そして、俺の目の前には

タキシードを着たネズミ色の髪の男が、俺に向かってこう言った。


「お前さあ、ハタチ?・・・、まぁいいや、今日からお前とペアを組む。」


「は?・・・え?、いや、えっ?」


何だこの白いスーツの男は。それにナカバヤシが・・・。

「成人式を狙ったヤツが、今日ハタチ狩りをするんだ。危ないからこっちへ来い、走れ。」


俺は手首を掴まれ、謎のタキシードに連れられその場を駆ける。


ハァッ、ハァッ、・・・・ッハァ、!!!!


走ってる間も成人式の会場だろうか、ギャアアとかワアアアアとか、クソデカイ悲鳴が聞こえた。

(ハタチ狩りって何だよ、)と思いながらも足の速い目の前の男に着いて行くので必死だ。

どれだけ走っただろうか、走る速度が遅くなりやがてソイツは何処かの繁華街、路地で止まった。

ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、・・・、

汗と乱れた呼吸の息切れを落ち着かせる。

「ハァ・・・ハァ。おい!お前・・・誰なんだよ、さっきの・・・」

目の前の男は息切れどころか汗もかいていないように見える。


(何なんだ・・・。ナカバヤシが・・・、)


そうだ、俺の親友ナカバヤシが、ナカバヤシは死んだのか?ナカバヤシとはたまにゲーセン行ったりする俺の親友で・・・。


「いいか?親友の事は忘れろ。俺はお前だけは助けてやると言ってるんだ。」

助ける?さっきのとこに居たら、俺も死んでたのか、

このタキシードは『ハタチ狩り』と言っていた。

何かのチンピラどものタチの悪ィあれか?ブームか。

そもそもネットでもそのような言葉を見ないし聞かない。


「この国ではハタチを狩る事にしたんだ。今日から。」


「は?、え?、何?」


今日から?

ハタチを?だから成人式で?・・・・

コイツがその何やらタチの悪い“ハタチ狩り”の張本人って事か、


「言っておくけど、僕はお前より年下だ。お前は二十歳、俺・・・僕は十九、一個下だ。」

一個下だろうが何だよ。ハタチ狩りって何だ?・・・。


「何が・・・起きてるんだ・・・?」


「何が・・・起きていると思う?」


俺を見ながらにっこりしているソイツの言うそれが解らないから聞いている。


朝、昨日ゲーセン行った帰りにナカバヤシから成人式行こうと言われ、着るものはスーツで良いかと訊き、良いと言われたからいつか着るだろうと仕舞ってたスーツを昨日の内に部屋にかけておいて、寝て起きて顔洗ったら俺は何故か上下スウェットのまんま電車乗ってて、外は寒いから上着羽織って来たけど、スウェットで来ちゃったもんはしゃーねーしでアイツも俺見て笑うだろうしここは笑い飛ばそうと思って・・・。それで、


「・・・・・。」


「思い出しちゃった?」


「?(何を。)」

思い出す事はさっきのナカバヤシ....


「いや、お前は【ナカバヤシとは親友じゃなかった、】いいな?この俺がお前と組んでやると言ってるんだ。俺はお前のなくてはならない存在になる、と言っているんだ。ナカバヤシはハタチ狩りに合った。だからお前には俺が必要だ。」


(俺に必要な、)


「フン・・・、ああ。頼むよ。」


「フフン。」


ナカバヤシはハタチ狩りに合った。

ナカバヤシは俺と親友じゃなかった。

ナカバヤシは成人式の今日に死んだ。

今日から俺に必要なのは目の前の男。


「さぁ。今日からこの国のどこかしこでハタチ狩りが始まる、全国で、何千万といるハタチが駆られる。どうだ、歳下の僕から護られる感想は?」


「・・・超良い感じ。」


そして今に至る。

事件の後、俺達はなんと走り抜けた繁華街の隅っこにあったラブホテルにチェックインした。男二人で、案外行けるもんだ。ネオンピンクの蛍光灯には入るや否やルームに着くまでに客同士始まりそうなホテルの館内で、タッチパネルが光っているところが泊まれるルーム。それ以外は客が入っているルーム。服装のおかしな背の高い男が二人、安そうなとこを選ぶと、白いスーツのほうには出てきたフロントの女性から無料チケットを貰っていた。顔を赤らめて背の高いソイツに、これどうぞ、と。早速ソイツはモテていた。


そしてPM1時、既にシャワーも浴びれば着替えてルームの明かりを消したキングサイズのベッドの灯りで、成人式に行きそびれたハタチの男が寝る前にスマートフォンを手に持ち、『寝る前の何となくネットサーフィン』をしている。

いつもの寝る前のネットサーフィン、

背中には白タキシードのまあまあ顔の良い男が背を向けてスヤスヤと眠っている。

明日から俺は世界戦争が始まる。

【ハタチの世界戦争】

だから

(おやすみ世界戦争。)

ライトを消して背中をぴたりと眠りについた。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る