第1話 極光の剣星、始動

「ほうほう…!ここが秘匿されたという政府の元極秘研究施設…!」


・ここどこだよ

・誰かわかるか?取締会に連絡するんだ

・マジでどこだここ。どっかのダンジョンではあるんだろうが

・くっ、知識不足か…!


「見つからない自信があるんだな〜、これが」


春巻はるまポルゥ。緑色の髪にうさぎの仮面をしており、背中にドデカイハンマーを背負っている女子学生でありながら配信者だ。ダンジョンに関係するありとあらゆる黒い噂の証拠を捉えるべく配信を行っている。時々ガチの証拠を掴んだり、許可取るのをめんどくさがって無許可で他校の管理するダンジョンに入ったりするため、彼女が所属しているアルム聖剣学園の取締会…管理されているダンジョンにおけるルールを守らない生徒を捕まえて罰する組織ーーーから普通に追われているのだ(理由の十割は後者)。配信の視聴者は位置を特定しようとダンジョンの特徴を観察するのだが、彼女は毎度違うダンジョンに潜るため、特定できても取締会が間に合わないのだ。


「!人の気配?がするね。まだ誰がいるのかな?だとすると危なそうだけど…でかい証拠になりそう」


ポルゥは曲がり角の先から気配を感じ、恐る恐る顔を出してその気配の主を確認する。


「っ!?逃げ!」


異形だった。かろうじて人の形ではあったが、赤黒い肌をしており顔には口しかなく、腕が裂けて幾つにも分かれていた。顔を出した瞬間、それがこちらを見た・・ような気がした。


・一瞬映ったけど見た目ヤバない?

・もしかしてマジのやつ引き当てちゃった?w

・このダンジョンのレアモンス的なやつかもしれないけどな

・でも確かポルゥAランクだろ?逃げる必要なくないか?

・確かに

・その背負ってるのは飾りか?


「それ、どころじゃ、ない!」


見た瞬間わかった。あれは私なんかに手に負えるものじゃない。最低でもS級はなければ無理だと。必死に走る。救援要請をしたいが、下手な人間が来たら犠牲者が増えるだけだろう。ここは第三階層。急げば早い段階で出ると…はずだった。


「ぁ、ぇ?なん、で」


急に足が地面から浮いた。直後に見えたのは、自分を貫く三本の赤黒い肌と、鮮血。


「ぁ…」


咄嗟に背後を見てしまう。口だけで、醜悪な笑顔を浮かべていることがわかった。貫かれた位置は、左肩、右胸、右太腿。異形は楽しそうに触手を振り回し、ポルゥを何度も壁や天井に激突させた後に投げ飛ばす。


・は?

・嘘だろ?

・おいおい、流石に嘘だよな?

・ポルゥ!ダンジョン教えろ!救援呼べない!

・ポルゥAランクだぞ…やばいって…


「救、援、は…人死、増え、ゴホッ、ゲホッ!っるから。ごめんね、みんな」


全身が痛い。身体を動かせない。まともに呼吸ができない。異形がゆっくりと近づいてくるのを見て、自身の死を確信する。まだ、友を救えていないのに。自分の目標を、友との約束を、まだ為せていないのに。ポルゥは、心の中で謝罪しながら、その目を閉じた。


「大丈夫かしら?助け、必要?」


凛とした、美しい声が聞こえた。


**********


状況よくわかんないけどこの子、多分あの変なのにやられてるよね。ていうかこの衣装素晴らしい。さすが極星の光刀君。黒いコートで身を包み、仮面をつけた謎の剣士。これほどかっこいいものはないね!


『ふっふっふ。であろうであろう?私もそのセンスは素晴らしいと思う。かっこよかろう?かっこよかろう〜!』


マジ神ナイス。ていうかなんだろねあの変なの。適当な試し撃ちにはちょうどいいかな。この女の子誰か知らんけど面白そうだし助かるか!


『変なのは私も知らないわね…人体実験にでも使われた素体かなんかでしょ。というか知らないやつも助けるのね、やっぱり面白ければなんでもいいのね…』


「コフッ…だ…め、あれは…」


俺に向けて変なのが触手を放ってくる。それを…


キンッ!


俺に辿り着く前に、すべて斬り捨てる。うん、いいね、単純に使いやすいいい刀じゃないか、君。


『お褒めに預かり光栄やな〜』


「あれがどうかしたのかしら?それより喋るのはやめなさい。死ぬわよ?」


「で、も…むぐっ!?」


「黙って見てなさい。傷は治してあげるわ」


究極治癒マキシマムヒール》っと。無詠唱でやっときゃなんかかっこよく見えるだろ、知らんけど。


「えっ、傷が…?」


「大人しくしてなさい。治癒したとは言っても失った血と体力は戻らないのよ。それより…このエルクロム総合学園初心者ダンジョンに何か用かしら?」


「あっ」


・ダウト

・バラされてて草

・今通報しておいたんで

・というか話ながら飛んでくる攻撃全部捌いてるのやばいな、視線すら向けてないし


「さて…そろそろ鬱陶しいわね」


レイえも〜ん。


『どうしたんだい凛太くん』


特殊な魔法、使ってみようZE☆


『全速前進DA☆!』


俺の前世でも知らない属性…仮称星属性ーーーの魔法…興味湧かせてせてくれるじゃねえか!お試しで…火属性の中級魔法、《火槍フレアランス》に仮称星属性の魔力を混ぜて、行くぜ!即興ネーミング!


「可哀想に。今、その苦しみから解き放ってあげるわ。星の炎に焼かれ、安らかに眠りなさい。《星火槍フレアランス・ステラ》」


現れたのは神々しい白い炎の槍。槍は高速で飛翔し、一切の抵抗を許すことなく、異形の体を焼き貫く。不思議と熱を感じない、優しい炎。異形はその体が完全に燃え尽きる直前、嬉しそうな、感謝のような笑みを浮かべた、そんな気がした。


俺は一瞬だけ異形がいた後を見る。そこに残っていたのは魔石などのドロップ品…ではなく、一つの指輪だった。それを優しく拾い上げて観察すれば、『ひより』と書かれているのがわかる。結婚指輪…もしくはそれに準ずる何かの役割を持った指輪だろう。


これ、一応回収しておくか。墓とか見つけたらお供えしないとね。


『どう!?星属性!いいでしょ!ねぇねぇねぇ!』


うるさい子だね…まあ、見た目のかっこよさと威力に関しては素晴らしい限りだよ。魔力消費量多すぎて一般人に扱わせる気がないのが透けて見えるんだが。俺だから連発できるが、一般人なら一撃で魔力枯渇する上に生命力まで消費しそうだな。


『まあ特別だk「貴女は…一体…?」小娘ぇ…私が喋ってるやろうが…』


ステイステイ。君の声なんて俺にしか聞こえないんだから彼女にそれを知る術ないじゃないか。勘弁してあげてね。


『チッ…仕方ない。今回はマスターに免じて許してやろう』


「私が誰なのか…ね。私が貴女に教えてあげる義理はないわ。そんなに知りたいのかしら?」


「っ…ご、ごめんなさい」


「まあいいわ。教えてあげる。私は極光の剣星レイ・プリマステラ。好きに呼ぶといいわ」


よしっ、ぽい名前名乗っとくか。


『悪くないわね、私の名前を思いつきで入れるのも高得点だわ』


君はそれでいいのか…?まあ、適当に転移魔法使ってっと。


「また会う瞬間があるといいわね。それじゃ」


いい感じに存在と強さを見せれたぞ!後仮面してるし普段してない女声出してるからレイ・プリマステラ=穂波凛とはならないだろう…ふっ、我ながら完璧な作戦だ。


**********


あれから一週間が経ち、俺は…


「凛!次は北のtier3だ!行くぞ!」


「はい!」


美鶴先輩と救助依頼の仕事をしていた。ここではダンジョン事故が絶えない。そのため、救助依頼を受け付けているととてつもない頻度で依頼が殺到するのだが…うーん、忙しいねえ。まあ報酬がそれなりにもらえるから文句はないんだけど。というかtier3…俺ランク上げてないだけとはいえEランクだよ?適正tier5ダンジョン、というか初級ダンジョンなんだけど。もうちょいなんとかならなかったのかな?


「正面、ボブゴブリン!右の脇道にオーク三体だ!」


「了解!オーク、仕留めます!」


ボブゴブリンの棍棒の間をすり抜けて…短剣でオークの首を刈る!後二体…寄ってきたボブゴブリンは腹を蹴って距離をとる…オークの攻撃は、ギリギリでかわして喉元を掻っ切る!これが効率のいい倒し方だな!


腹を蹴られて苛立ったのかボブゴブリンが俺に襲いかかってくるが、その脳天を風の銃弾が撃ち抜いた。美鶴先輩の固有武器は二丁拳銃…しかも打ち出す銃弾に火、水、風の三つの属性を選択して付与することができるらしい。普通に強いし、リロードが必要とはいえ銃弾も固有武器に含まれているためいくらでも生み出せるらしい。


「救助の発信先はこの次の階層だな、急ぐぞ」


「了解です」


俺と美鶴先輩は次の階層に向けて今いる階層を走り抜ける。すると、少し離れてはいるが、巨大な斧を持ったモンスター…本来tier2ダンジョンにいるはずのBランクモンスターのミノタウロスの姿が見えた。しかし、そこに向かう道には五体のボブゴブリンと八体のオークがいた。


「俺が先行します!先輩は露払いと援護を!」


俺はそこに一切怯むことなく突っ込む。すれ違いざまにボブゴブリン二体とオーク三体の喉笛を掻っ切り、速度を落とさない程度に切りつけながら、隙間を掻い潜って斧を振り下ろそうとするミノタウロスの目の前に割り込む。二本の短剣で斧を受け止め見当はずれの方向に流そうとするが、想定よりもずっと力が強かった。即座に多少の怪我を気にせず無理矢理受け流す方針にシフトする。


「ッ、オラァ!」


斧が俺の右腕を掠るような形で通り過ぎる。しかし、その風圧だけで右腕の肉が削がれ、血が流れ落ちる。だな、ミノタウロスは斧を振り終えており、確実な隙がそこにあった。二本の短剣をミノタウロスの喉元に正確にぶつけるが、10cmほど食い込んだだけで、切断するには至らない。だが…


「美鶴先輩!」


一発の風の弾丸。それが俺の短剣に正確にぶつかり、刃を後押しする。二本の短剣はミノタウロスの喉を切断し俺は勢いを殺しきれずに空中に投げ出され、地面に叩きつけられる。肺の空気が押し出されるような感覚はあったが、この程度であれば行動にそこまで支障は出ないだろう。右腕も痛いには痛いがそこまででもない。


「凛!大丈夫か?」


「適切な処置をすれば大丈夫かなと思います。包帯持ってますか?」


「ああ。私がやろうか?」


「いえ、自分でできるので大丈夫です。それより先輩はーーー」


要救助者を、と言おうとしたが直前で言葉を止めてしまう。


「っ、お前…!」


「凛、お前すごい形相で睨まれてるが、何かあったのか?」


要救助者はまさかの彩羽末治だった。その横で仰向けで倒れて気絶しているのは蜂河龍司だろう。とりあえず詮索されても困るし、美鶴先輩には先に釘刺しておくか。


「美鶴先輩には関係のないことです。あまり詮索しないでください」


「そう、か。であれば私は席を外そう。邪魔になるだろうからな」


その言葉に、俺と末治はギョッとする。気を遣ってくれるのはありがたい。だが…だが!気を遣う方向性が間違っている…!


「美鶴先輩!?ちょ、ちょっと!?ほ、本当に行った…」


俺はため息を吐きながら、右腕にキツく包帯を巻いていく。すると、末治がこちらに話しかけてきた。


「穂波凛…!あんた、私たちに恥かかせに来たのかしら?」


「救助依頼に応じただけだ。もっとも、貴様らが要救助者だと知っていれば放置してただろうがな」


俺はそう言いながら中級回復薬…《ミドルポーション》を二つ末治に向けて投げる。末治はいきなり投げられたそれに驚きつつも危なげなくキャッチした。


「情けのつもりかしら?」


「さあ?そう思うのならそう思っておけばいい」


「…随分と丸くなったものね。穂波家の坊ちゃんが」


「救助依頼を受けた以上、仕方なく優先してやっただけだ。後坊ちゃんではない」


まずっ、これ言わない方がいいじゃん、女だってバレーー

ーー


「ふっ、そうね。穂波家を追放された一般人だったわね」


末治がその言って嘲笑ってくるが、正直助かった。危ない、完全にやらかしたと思った。


「………」


「あら、何も言わないのかしら?もしかして、図星だったの?」


なん、だ?脳がチカチカする?思考がはっきりしない…


「!?あんた、大丈夫かしら?呼吸が荒いわよ?」


なんか頭がクラクラすんな…意識も微妙、だな。なんか変だ。


「アアッ!」


俺は無理矢理体を動かし、頭を地面へ叩きつける。よし、多少痛いが思考ははっきりしたぞ。


「な、ななな何してんのよあんた!?狂ってるのかしら!?」


「問題ない…意識が持ってかれそうになっただけだ」


「問題大有りでしょうが!」


そう言いながら俺は増血ポーションを取り出して飲む。意識がはっきりし、頭のクラクラも治る。俺がどういう状況だったのかと言うと…そう、出血多量である。忘れてた、今の俺は前世とは体が違う。身長も体重も少ないし、体は華奢だ。元々の血液保有量が違うんだ、そこは盲点だったな。


「テメェはポーション飲んだらさっさと帰りやがれ。その馬鹿は担いで行くか起きるのを待つかしろ。俺は担いで行く方を推奨する、護衛時間を無駄に増やしたくはない」


「チッ、あんたがいなくとも問題ないわ。さっさと帰れ!」


「そうか。じゃあ帰らせてもらおう」


「うっ…ぐ。待っ、待って…凛、君」


末治に帰れと言われたのでさっさと帰ろうとしたが、俺はまさかの人物に引き止められた。蜂河龍司。俺が騙し、本人の実力に見合わないtier3ダンジョンに放り込み、殺そうとした人物。それと同時に、偶然『理外れの武具』である『星塵の龍剣ドラゴ・フォルランド』を手に入れるきっかけを得た人物。底抜けに優しく、敵にさえ情けをかけてしまう存在。それが彼だ。


俺は首を捻って後ろを見る。末治は龍司に無理をさせまいと黙らせようとするが、龍司は気にせず言葉を続ける。


「助けてくれて、ありがとう…それと、ごめんね」


感謝の言葉に付け加えられた、『ごめんね』の言葉。客観的に見れば、それは凛に対する末治の態度についての謝罪だと思うだろう。しかし、凛はそのような意味で用いられたとは思えなかった。もっと、別の意味があるような、そんな気がした。迷惑をかけたことによる謝罪なのか、感謝の言葉をすぐに伝えられなかったことによる謝罪なのか…それとも、また違った意味を持った謝罪なのか。どれが正解かはわからないが、ただ確かに、その言葉は受け取った。


「ハッ、笑わせんな。俺は俺のために行動する。感謝される謂れはねえよ。こちらかもお返しだ。『悪いな、黙ってて』だ。んじゃ、二度と会わないことを祈る」


俺の言葉を聞いた龍司の表情がやけに柔らかかったことが、俺の心に深く、印象に残ったのだった。

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