距離に、触れる。

夕凪あゆ

第1話

君はいつも遠くにいて

手を伸ばしても届かない

その存在が、

日常の光と影の間に

そっと差し込むだけで

胸がぎゅっと痛む


教室の窓から見える夕焼け

並んで歩いた帰り道

些細な瞬間を思い出すたび

胸の奥で小さな火が灯る

けれどその火は

決して君に触れることはなく

ただ焦げついて、僕を熱くする


君が笑うたび

心の奥で何かが揺れる

それが嬉しくて

それが苦しくて

同じ呼吸をしているのに

同じ空間にいるのに

触れられない距離にもどかしさが募る


夜の街をひとり歩く

街灯の影に自分の影を追いかけながら

ふと、君の声や足音を探す

でもそこにあるのは

自分の息だけで

君の温度は届かない


何度も君に話しかけたいと思った

何度も手を伸ばしたかった

でも言葉は喉で止まり

手はポケットの中で震える

君は何も知らずに

ただ歩いていく

僕の世界をすり抜けて


それでも心は勝手に君を追う

見えない糸に引かれるように

苦しくて、息が詰まるくらい

それでも君を想ってしまう

止められない、止めたくても止められない


星空の下、夜風が頬を撫でる

君の笑顔を思い浮かべて

胸の奥が熱くなる

届かないことを知りながら

この気持ちを止めたいとも願いながら

それでも心はずっと君の方を向いて

今日も、明日も、

何度でも苦しみながら

君に触れたいと願っている

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距離に、触れる。 夕凪あゆ @Ayu1030

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