第5話 ハルの足音

講堂の天井から差し込む光が、制服の肩に落ちていた。

名前を呼ばれるたびに、拍手が響き、また静まる。


みうは、自分の名前を呼ばれた瞬間、

胸の奥で小さく「終わっちゃうんだな」と思った。


卒業証書を受け取り、席に戻る途中で見えたのは――

泣きそうなのを必死にこらえる美花と、

何度もハンカチで目を拭く音色、

それを見て笑いをこらえてるなつ。


(この3人と過ごした時間が、今日で一度終わるんだ)


そう思ったら、喉の奥がぎゅっと熱くなった。


式が終わると、

校庭には人の波。

泣いている子、笑っている子、

あちこちで「写真撮ろう!」の声が響いていた。


「ねぇ、最後にさ、私たちも撮ろ!」

美花が言って、4人が肩を寄せ合う。


スマホを先生に渡してた。

音色がなつに笑いながら言った。

「ねぇ、なつ、ピースじゃなくて変顔してよ」


「えーやだよ!せっかくの写真なのに!」

「最後くらい真面目に撮ろうよ」

と、美花が言って、うみが吹き出した。


「もー、笑わせないでよ!」


カシャッ。

シャッター音が響いた。


音色が画面を覗いて、すぐ笑い出す。

「ちょ、なっちゃん変顔してるし!」

「音色、笑うなよ!」

「だって面白いんだもん!」


4人の笑い声が、春の風に混じって空に溶けた。


そのあと、校門の前で写真を撮りながら、

音色がふと空を見上げて言った。

「……高校、終わっちゃったね」


「でも、またすぐ会えるよ。大学一緒なんだから」

なつが微笑む。


「そっか。“またね”って言える卒業式、悪くないね」

うみがそう言うと、美花が少し涙声で言った。


「うん。“さよなら”じゃなくて、“またね”だもんね。」


家に帰る途中、

うみはスマホを開いて、グループ名を“春の足音”に変えた。


【いい名前!】

【次は桜咲いたらピクニックね!】

【了解!お菓子担当なつね!】


画面を見て笑う。

外の風は、もう冬の匂いじゃなかった。


4人の足音が、静かに春へと続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハルの足音 とな @Cp_0031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ