顔のコピー
呑戸(ドント)
顔のコピー
十二年も経つんだな──。
いえ、こっちの話です。
ああそうだ。
この際ですから聞いてもらえますか、僕の話。
たぶん時間もあんまりないんで、ザッとお話しますね。
通ってた小学校に、変なコピー機があったんですよ。
職員室の資料室のいちばん奥にあって。
先生たちは新式のコピー機を使ってて、コンセントも抜いてある。でも何故か処分されずに、置きっぱなんです。
変でしょ。
それで。
「あれは呪われたコピー機だ」って噂が流れました。
呪われているから捨てられない、動かすと恐ろしいことが起きる──そんな噂。
何故か先生たちの耳には入ってないみたいだったなぁ。
いやいや、話させてください。
これも縁だと思って聞いてください。
僕が四年生の時でした。
そうそう今月だ。九月でした。あぁそうかぁ。
用事があって、友達三人と職員室に行ったんです。
でも目的の先生はいなくて、無人でした。先生を探しに行くの面倒だなぁ、って言ってたら。
目の端でピカッ、と光が見えたんです
そっちを見ると、奥の資料室で何かが光っている。
行きたくなりますよ。十歳のガキですから。
いえ、つらくはないです。
痛くもないですよ。
最後まで言わせてください。
そうしたら、例のコピー機が動いてたんですよ。
古臭い緑のモニタが点灯してて、「カイシ」「マイスウ」とか、片仮名が出てて。
コンセントは、刺さってなかった。
本体の脇にぶら下がってました。
僕ら、興奮しちゃって。
電源無しでコピー機が動くなんてありえないでしょ。怖さよりもそちらに気が向いちゃって。
度胸試しのつもりだったのか、誰が言い出したのかはわかんないんですけど。
顔のコピーを取ろう、という話になりました。
それいいな。やべーな。どんなことになるのかな。みんな呪われたりして。なんて盛り上がりましたね。
あぁ。言い出したの、四人の誰でもなかったかもしれないなぁ。
まぁいいや。
全員でコピー機を囲んで、「マイスウ」を四にしてから、顔面をガラスに押しつけて、「カイシ」を押しました。
ギュッと閉じた目蓋の表を、光が一往復するのがわかりました。
A4の紙が四枚出てきました。
そしたら。
四人の顔のうち三つがね。
「成長」してたんですよ。
ひとりは中学生くらいで。
もうひとりは高校生で。
僕は若者になってて。
そして何故か、四人ともね。
顔に生気がなかったんです。
死んだような顔になってたんです。
ひとりだけ顔がそのままだった友達が叫んで逃げ出しました。
追いかけましたよ。
そいつは靴も履き替えずに走って、校舎から出て、校庭を横切って門から飛び出して──
車に跳ねられました。
僕たち、動けませんでした。
だから、死に顔も見れなかったんです。
それで──
中二の時に、コピー機で中学生の顔になってた奴が、死にました。
駅のホームから落ちて、轢かれて。
高三の時には、高校生の顔になってた奴が死にました。
大学受験を苦に、飛び降りでした。
頭から落ちたらしくて。
それで、僕、あの。
二十二歳なんですよ。
今から考えたら、四年おきなんですよね。
十歳、十四歳、十八歳、二十二歳。
四人だったからなのか。
四枚コピーしたから、なのかな。
気づいてたら、もう少し気をつけてたし、お祓いとか、行けてたかもなぁ。
ああ、フラフラしてきた。
やっぱり血がどっかから出てるのかなぁ。
あとね、これ、こじつけかもしれませんけど。
ガラス面に、顔を押しつけて、ギューッと潰すようにして、コピーしたんですよ。
だからかな。
みんな「潰れて」死んでるんですよね。
まぁだから、これも必然って言うか。
痛みもないのが、救いではあるんですけど。
もう、助からないでしょう、僕。
嫌な話してごめんなさいね。
でもホラ、あなたが車でね、突っ込んできて、こうやって塀に、僕の腹を押し潰して、死なせるわけですから。
いやぁ、仕返しって、わけじゃなく。
単に話す相手が、あなたしか、いなかったんです。
今まで、誰にも話したことのない、話で。
あー、救急車、来たのかぁ。
いや、駄目だなぁ。
お腹から下、感覚がなくて。
無理っぽい、なぁ。
ははは。
あの。
こういう顔だったんです。
コピー機から、出てきたのって。
ねぇ、こっち見てくださいよ。
コピー機から出てきた僕の顔は。
こういう感じだったんですよ。
そう。
こういう。
かお
顔のコピー 呑戸(ドント) @dontbetrue-kkym
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