第9話:人類消失11日目

その日、僕は住処とする家から一歩も出ることはなかった。

僕は混乱していた。

混乱した頭で、彼女の姿をした何かの存在について考えを巡らした。

あれは何だ!

彼女の姿をした、あれはなんだ!

彼女は死んだはずだ。

じゃあ、あれは…、幽…霊…?

馬鹿な!! 幽霊なんて、いるはずない!

この世界には、僕しかいないんだ!


混乱の極みの僕の視界の先で、彼女は、ゆらりと姿を現し続ける。

柱の影から。家具の隙間から。

彼女の顔が、血塗れの顔が、見え続ける。



何故、彼女が僕の前に姿を現したのか。

あれは幻だ。

僕が置かれた世界の究極的な孤独が見せた、幻想だ。

絶対に叶うことのない【社会的欲求】と【尊厳欲求】…他人の存在を無意識に求める僕が見た、空想だ。

だが。

それと同時に、血濡れの彼女の姿は、開放感と万能感で無理やりに忘却の彼方へ葬ろうとしていた、僕の『罪悪感』、そのものだったのかもしれない…。


その時の僕は、まだそれに気付かない。…受け入れない。

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