近隣神社の萬屋さん
秋月しの
プロローグ 神社には巫女がいる
第0話 平凡な日常がずれる兆し
「非日常感が半端ねぇ」
昼下がりの柔らかい淡黄色の日差しを浴びて、俺はこの古めかしい神社の中で嘆いた。
人気のある神社のような大きい看板はもちろんなく、一見廃れたお寺っぽいこの神社に来る参拝客がいつでも少ないだろう。そこを狙って入ってみたのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
拝殿の隣にすっくとたっている物置小屋か何かの屋根を見上げている俺は、目に入った光景に言葉に詰まる。長い黒髪の少女が俺を見下ろして、何かの悪戯をしたかのようにニヤリと俺に笑っている。
身長は百六十センチくらい、年齢は十七歳前後、服装は典型的な紅白巫女服。
彼女はその屋根の縁に座って、両足をゆらりと揺らがしている。
下から目線なので、俺にはその長い巫女服に包まれている細くて白いふくらはぎがチラッと見える。
「ガタッ」
そのゆらゆらの足から、彼女が履いている下駄が地面に落ちた。
狐につままれた俺が何かを言おうとしているが、彼女が落ちた下駄を気にせず、先に口を開いた。
「神頼みより自分頼みしなきゃ。しかしまぁ私は何をしても楽勝で誰にでも頼まなくていいもんね」
なに?それは俺に話しかけているの?
ただでさえこの状況を把握できていないのに、わけわからんことを言わないで欲しい。でもいつまでも木みたいにぼーっとしてはいけない。この町に来て早々遭ったこの俺の日常を破壊する危機から抜け出すために、何か言わないといけない。
「えーっと、あなたはこの神社の巫女さんですか」
正直この巫女服を身に巻いて遊んでいる子供みたいな女の子に敬語を使うことに少し違和感を覚える。
妙に気を遣っている俺の反面、彼女は軽い口調で答えてくれた。
「そうだよ。この服を見てわからないでしょうか」
「そりゃ、巫女にそぐわないことを言ったので」
「『巫女ってこんなことを言うべき』みたいな掟は特にないでしょう。それに私が言った のは事実だし。巫女としての仕事をちゃんと果たしていいんでしょ」
「そうか」
自分でも素っ気ないと思うような返事をして、俺は振り返って家に帰ろうとする。これで俺は平凡な日常を守れるんだろう。
しかしこの巫女は見逃してくれないようだ。屋根から子ウサギのようにさっとジャンプして降りて、彼女が俺の帰り道を立ちはだかった。
「今こそ巫女の仕事を全うする時だ。少年、あなたの悩みを教えてくれ」
「問題解決は巫女の仕事範囲に入ってないと思うんだけど」
早くさようならして家に帰りたいと思う俺の質問に対し、彼女は少し考えてから朗らかな笑顔を見せながら、口を開く。
「私は巫女の傍ら、萬屋さんの仕事もしているんだわ」
近隣神社の萬屋さん 秋月しの @akitsukishino
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