第六話 完璧ロボがやってきた。すごいぞ!ジェントル・ジョルジュ

 晴れわたる空の下、何事か話をしている雀たちの声がチュンチュンと沿道に降ってくる、ここは市立妥当曲だとうきょく中学校の通学路。地上では元気な子どもたちがあちらこちらから集まってきている。いつもと変わらぬ平穏な一日の始まり。そんな中ひとりトボトボ歩いていく男子生徒がいた。

 いつもはこの道を騒々しく駆け抜けていくこの少年――轟武とどろきたけるは、俯きがちに物思いにふけりながら前へ進んでいく。彼はいま、自分が何をしているのかすら認識していなかった。ただ無意識に、身体に染み付いた日頃の生活ルーティンのまま行動しているだけだ。

 そんな武の進路上に現れた女子生徒――いつもなら獲物として登場する相原あいはら美月みづきにも関心を示さず、ただ歩幅の差によって徐々にその距離をつめていく。例のごとく美月は武の接近には気づけない。ついに武が美月の背後、手の届く範囲へ近づいたその時、彼の右手が濃紺のスカートを跳ね上げる。可憐な薄桃色の布があらわになった。

「ちょっと⋯⋯」と横を通り過ぎる武へ抗議の声を上げようとする美月。しかしそれが無益なことだとすぐに理解した。武のあの目、やはりこれも意識してのことではなく、肉体の慣習に従ったのみだ。そんなこと覚え込ませているんじゃない、と文句のひとつも言いたくなったが、その言葉は呑み込んだ。昨日の闘いを知る美月は武を責める気にはなれなかった。

 実は先ほどの恒例の行為はいつもより武と美月の接触が遅れたため、校門の目前で実行されていた。いつも通り生徒を迎えていた生活指導教師はその破廉恥な行為を目撃し、武を叱責しようとしている。

「おいっ、轟、お前⋯⋯」

 そこに慌てて間に入る美月。首を振って教師を押し留め、次のように弁解する。

「先生、すいません。今日はちょっと⋯⋯。勘弁してあげてください」

 教師はそう言われて、通り過ぎていく武の虚ろな表情からなにかを察したようだ。そんな武を指差しながら、美月を見る。美月はただ静かに頷くだけだった。


 武はその日一日をずっとこの調子で過ごした。ここ最近ずっと続いていた、転校生・篠原零しのはられいへの対抗心も見せることなく、静かに腕を組んで何かを考えている。武が黙ってものを考えるなんてことは、もうそれだけで異常事態である。級友も最初のうちはそんな武をからかいにやってきたが、なにをしても無反応なのを知ると、これはただ事ではないと、遠巻きに見守ることしかできなかった。

 教師たちも同じだった。あまりの静けさに、また以前のように寝ているのかと思ったが、よく見ると目はちゃんと開いている。まるで真剣に授業を聞いているようにも見える。それで試しに問題を解かせてみようとした者もいたが、ムダだった。武の名を呼んでもなんの反応も示さない。しつこく追及しようとすると、美月が「先生」と小さく声をかけ、首を左右に振って制止した。その美月の真剣な表情に、その場は退くしかなかった。


 学校が終わると、武は美月を待ちもせず、一目散に研究所へと駆け出した。秘密のエレベーターに乗って地下へと向かう。いつもの巨大モニターの前で指示を出していた博士の前までやってくると、おもむろにこう懇願した。

「博士、レスナーBをパワーアップしてくれよ」

「なんじゃい !? 藪から棒に」

「いまのままじゃ、また敵にやられちまう。レスナーBをもっと強くできないのかよ」

 博士は武の目をまっすぐ見つめる。その真摯な瞳。乱暴な意見ではあるが、よく考えたうえでの頼みだろうと、博士は見て取った。

「武よ、よく聞くんじゃ」博士は静かに言い聞かせるように語りだす。「例えレスナーBのアントンゲノムの出力をさらに増やしたとしても、この前の宇宙人ロボットには勝てぬじゃろう」

「だって、それじゃ⋯⋯」

「問題は操縦しているおぬしなんじゃよ。わしの見る所、おぬしはまだレスナーBの能力の半分も引き出せてはおらん。強化が必要なのだとしたら、それは武、おぬし自身なのじゃ」

「そんな、じゃあいったいどうすれば⋯⋯」武は悲痛な声をあげる。

 博士はしばらく俯いて考え、決心したように顔を上げた。

「武よ、いい機会じゃ。ここらでロボットの闘い方について、正規に学んでみるか?」

「ロボットの闘い方?」

「そうじゃ。思えばおぬしにも美月にも基本的な戦闘方法を教えただけじゃ。特におぬしなんて睡眠学習じゃしな。この世界にはロボットの闘いのエキスパートがいる。その者に教えを請うんじゃ」

「それはいったい、どこにいる、誰なんだよ?」

 博士はいたずらっぽく笑うと、かわいくもないウインクをして言った。

「ちょうどよかった。近々開催される国際ロボット会議に、その人物が極秘にやってくることになっとる。わしが連れてってやろう」


 数日後、武と美月は博士に連れられて、首都で開催されている国際ロボット会議の会場に来ていた。

 これは表向きは一般的な国際会議と同じだったが、その実、世界各地で頻発している謎の宇宙人による襲撃に対抗するため、各機関の連携強化と情報の共有が目的だった。そこで行なわれるパネルディスカッションの特別ゲスト、それが今回の武たちの目的の人物である。

 博士は受付で手続きを済ませると、ふたりを連れて関係者用の区画へ入っていった。通路で出会う人たちはみな、博士を見ると丁重な挨拶をした。博士はそれに気さくに返す。

「なんか博士、偉い人みたいだな」武は隣を歩く美月にそっと耳打ちした。

「なに言ってんのよ。お父様は偉い人なのよ。なんだと思ってたのよ」

「ロボット好きの、おじさん?」

「ただのロボット好きのおじさんが、あんなレスナーBとか、ロンダーRなんて作れるわけないでしょ」美月は呆れた声を出す。

 ふたりがそんなやり取りをヒソヒソと交わしているうちに、関係者控え室に到着した。博士がドアをノックする。中から応答があり、扉を開いた。

 中にいた人物は、博士の姿を確認するとすぐに立ち上がった。にこやかな笑みを浮かべ、両手を広げて近づいてくる。

「おお、相原博士じゃないですか。これはこれはご無沙汰していました」

「元気そうじゃな」博士は大きな身体で覆いかぶさってくるその人物のハグに、背中をポンポンと叩いて応じる。それから武や美月を振り向いてこう言った。「彼が今回の会議の極秘ゲスト、ノーリカ連合軍ロボット格闘顧問のアンドレ・ルフォーブルくんじゃ」

 アンドレ・ルフォーブル――三十代後半と思われる壮年の男性。大きいが均整の取れた体躯に、品の良いスーツを見事に着こなしている。短く刈り込まれた金髪に、頑丈そうな鼻筋と顎、まつげの長い目元だけがどこか女性的な雰囲気をしている。軍人としてよく訓練された立ち姿。美月はそれだけで、この人物がただ者ではないことを察知していた。

「相原博士、もしかしてその二人は⋯⋯」

「そう、こっちがわしの娘の美月。ロンダーRに乗っておる。それからこっちが轟武。レスナーBのパイロットじゃ」博士は誇らしげにそう紹介した。

「ヒノモトに新しいスーパーロボットが現れたと聞いて、これはきっと相原博士の仕事だと思っていたんですが、こんなに若いパイロットが乗っていたなんて」

 アンドレはふたりの正面にやってくると姿勢を正した。そしてまず跪いて美月の手を取り、そこへ口づけする。ポッと頬を染める美月。武はなにか面白くないような気がした。次いでアンドレは立ち上がって、武に握手を求める。だが、武はその手を取らずにこうタンカをきった。

「へん、軍隊の顧問だかなんだか知らねえが、実力を見せてもらうまでは信用しないぞ」

「ちょっ、武、失礼じゃぞ」博士が咎める。

「そうよ武、今日はいろいろ教えてもらいに来たんじゃない。そんな態度でどうするのよ!」美月も叱りつける。

「俺はそんな肩書にペコペコしたりしねえ」武はそれでも一歩も引かない。「まずは、勝負だ!」

「いいかげんにせんか、武!」顔を紅潮させて声を荒げる博士。

 しかしアンドレはそんな武を見て、フフフと笑う。

「いや、たしかに、ファイターが相手の実力も確認せずに、同じファイターになにか教わろうなんて、そんなわけがないね。まずは一戦、やってみないとね」

「すまんのう、今回ここに来たのは、君にこのふたりを鍛えてくれるよう、お願いするためだったんじゃが⋯⋯」博士は恐縮のあまりいつもよりさらに小さくなっている。

「いや、博士たっての頼みとあらば、このアンドレ・ルフォーブル、喜んで一肌脱がせていただきますよ。しかし⋯⋯」アンドレは鋭い視線を武に向ける。「まずは武くんに私の実力を試してもらいましょうか」


 ここは国際ロボット会議の開催されている施設の、小会議室に準備されていたマットスペース。防具やグローブなどの道具も各種取り揃えられている。

「ここはね、会期中に私が希望者に実演するために用意してもらった部屋だよ。ここでロボット格闘術に関するワークショップを行うつもりなんだ」

 身体にピッタリと密着した機能的な印象の上下に着替えてきたアンドレがそう説明する。ちなみに武は市立妥当曲中学校の体育着を着ている。美月は自前の運動着。

「さて、それでは武くん、ひとつお手合わせを願おうか」アンドレは武を指名して言う。「ルールは、そうだな、なんでもありといこうか。今後のこともあるから急所攻撃だけは禁止にしよう。オープンフィンガーグローブ着用で、防具はどうぞご自由に着けてくれて構わないよ」

「へっ、そんなもん要らねえや!」と武はグローブを手に取りながら言う。


 マットスペースの中央で向き合う両者。アンドレは美しい所作で礼をし、武は慌ててそれに返す。そして、博士の合図で試合が開始された。

 武は腰を低く落とし、すぐにでも飛び込んでいける構え。一方アンドレは両腕を軽く前方へ掲げ、リラックスしたまま半身で構えた。ジリジリと間合いを詰めていく武。アンドレははじめ小刻みに左右にステップを踏んでいたが、とりあえず組んでみようと決めたのか、完全に足を止めて武を待ち受ける。

 両者の呼吸が合ったその瞬間、武が猛然と襲いかかった。アンドレの片足を取りにいく。特にフェイントも使わないあからさまなものだが、そのスピードと動きのしなやかさは天性のものだ。美月は観戦しながら、いいタックルだ、と思った。しかしアンドレはその速い動きを完全に見切り、自分の下半身を後ろに投げ出すようにして、武を上から押し潰した。アンドレの腹とマットの間に顔を挟まれた武は「うっ」と小さな声を出す。アンドレはそのポジションには拘らず、すぐに武を解放し、再び距離を取った。

 しばらく睨み合ったあと、またも突っかけていったのは武。今度はアンドレの両足を狙って組みに行った。しかしこれも、アンドレは武の頭部に上から圧力を加え、簡単に阻止する。マットに顔を埋めた武は舌打ちし、また距離を取った。

 そのまま同じ展開が延々と続いた。武が幾度飛び込んでいってもアンドレは簡単にさばいてしまう。美月の目にはアンドレが鼻歌交じりに遊んでいるように見えた。

「さて、そろそろこちらから行こうかな」

 アンドレはそう言うと、最初に見せた小刻みなステップを再開する。ほんの数センチ程度の間合いの修正を、武の動きに合わせて行っていた。それにより武は飛び込むタイミングがつかめない。なすすべなく動きが止まった。

 そしてついに前に出るアンドレ。左、右と牽制のパンチを出して、武が気を取られたところに、強烈な右の蹴りを武の左脚へ叩き込んだ。一撃でグラつく武。アンドレはその後も同じ箇所に蹴りを叩き込んでいく。

 美月は気付いていた。この展開がこの間の強敵、その後研究所では ”スカーフェイス“ と呼称されることになったあの宇宙人ロボットとの闘いと、まったく同じであることに。アンドレはあの闘いを映像で確認していたのだろうか?――いや、そうではない。武と対峙し、軽く肌を合わせただけで、最も有効な戦法を看破したのだ。美月はアンドレのその圧倒的な実力に戦慄した。


「さて、もうそろそろ納得してくれたかな?」

 それから何度目か、武の膝をマットにつかせた後、アンドレは確認するように言った。さすがの武もこの実力差の前には白旗を揚げるしかなかった。結局有効な反撃はなにもできなかった。

 しかしそれで全然見どころがなかったわけでもない。実はアンドレは内心驚愕していた。何度も立ち上がってくるこの少年のタフネスと気持ちの強さに。

 武はもちろん悔しさがあるのだろう、唇を噛んで震えていたが、意を決したように、マットの上に座ったまま姿勢を正した。そしておもむろに頭を下げる。

「お願いします。俺に闘い方を教えてください」

 後ろで見ていた美月もすぐに横に並んで正座し、静かに頭を下げる。ふたりのこの態度にアンドレは満足していた。この素直さと、あの強い気持ちがあれば、この子たちはきっと強くなる、と。

「よし、いいだろう。だが時間がないぞ。私がこの国に滞在できるのは一週間が限度だ。その間にベースとなる技術を叩き込んでやる。軍隊式だ、覚悟しろよ!」

「はい、よろしくお願いします」武と美月、ふたりの重なり合った声がこだました。


 それからは特訓の毎日だった。アンドレの指導は戦闘におけるある状況を想定し、そんな時はどう動くべきかを丁寧にレクチャーする。以降はひたすら反復練習。アンドレは闘いの場面で起こりうることを、時間の許すかぎりふたりに伝授していった。武は持ち前の体力で喰らいつき、アンドレが不在の時もドリルを休まず続けた。美月も武ほどとはいかないが歯を食いしばってついていった。

 そして最終日、武は再びアンドレと対峙していた。武は相手の様子をうかがいながら丁寧に左のパンチを突いていく。立ち位置を小刻みに変え、相手の打撃は正面から受けない。左、左ときて大振りの右パンチを放つ。とほとんど同時に身体を沈み込ませ、組みついた。さすがはアンドレ、これで倒されはしないものの、壁に押し込まれる。ここから勝負がどう動くか――観戦している博士と美月は息を呑む。

 その時だった、館内放送が急を知らせる。アンドレと武はついスピーカーを凝視する。謎のロボットが二体、この近くに突如出現したということだった。

「博士」武は振り向いた。

「うむ」博士は頷きながら続ける。「レスナーBを弾丸輸送で送らせる。武くんは準備するんじゃ!」

 武は大慌てでロッカールームへと消えていった。

「相原博士、私も出ましょう」アンドレはそう言うとさっと身を翻し、足早に去っていった。


 ハンガーの警告灯が回転しながら赤い光を放ち、ブザー音がけたたましく鳴り響く。作業員たちの退去を促す機械音声が流れる。レスナーBの周りに渡されていたメンテナンスデッキが旋回し、前方の通路をあけた。機体は台座ごとレールをスライドし、所定の位置につく。レスナーBの両側に現れた二つの黒い半球状の物体。それらが機体を挟み込むと、上から薄茶色の輪っかのようなものが降りてきて、球になったそれをバチンと音をたてて固定した。

 研究所から一番近い丘の上、展望台と簡易な公園が設置されたその場所にサイレンの音が鳴り響く。次いで速やかにその場から退去するようにとの機械音声。日課の運動のためその丘を登っていた老人が、坂道の途中で声を聞き、キョロキョロと首を巡らす。上では展望台が横にスライドしていき、そこからせり上がってきたのは巨大な大砲であった。砲身が持ち上がり、角度を調節する。激しく警告のランプが明滅する中、カウントダウンが開始される。

「⋯⋯5、4、3、2、1、発射」

 と同時に耳を聾する爆発音と、ズシンと響く衝撃を残し、巨大な球体が宙を切り裂いていった。老人は轟音に腰をぬかし、その場に座り込んでいた。


 敵の宇宙人ロボットタイプ二体は、傷痕こそ確認できないものの ”スカーフェイス“ の同型に見えた。全体は同じ深い灰色で統一され、特に飾りのないシンプルで均整の取れた形状。頭部だけが全体を鏡面のカバーに覆われ、表情のような意匠は確認できない。デザイン的には二度目に現れたロボットに似ていた。

 博士はモニターで確認しながら ”量産機“ という印象を受けた。前回の闘いでスカーフェイスが一定の評価を得たことで、これが製造されたのかもしれない。とするとこれは侮れん。しかも襲ってきた場所だ。狙いはこの国際ロボット会議だろう。ここで関係者を一網打尽にすれば、この世界の防衛力はガタ落ちになる。宇宙人め、ついに本腰を入れてきたか、と博士は考えた。

 そこに地響きをたてながらやってきたのは鋼鉄の巨人、レスナーB。二体の進行方向に立ち塞がった。

 いくらなんでも二対一では分が悪い。美月は祈るように戦況を見守る。ロンダーRがあれば⋯⋯そう思ったその時だった。

「武くん、待たせたね」頼りになるあの声がヘルメットから聞こえてきた。

 上空から風を切る音がする。影がひとつ、落ちてきた。意外なほど静かに着地する。大きな質量がその瞬間だけ消え失せてしまったかのように、大地を揺らすこともない。それは、まるで最初からそこにいたかのように、レスナーBと並び立った。

「おお、来てくれたかジェントル・ジョルジュ!」博士が歓声をあげる。

 ジェントル・ジョルジュ――先のユーロスでの戦争を闘い抜き、世界の人々から英雄視されるロボットの一体。その闘いはロボット格闘術を十年進歩させたと評された。

 白を基調とし、肩や腰回り、関節の各部は赤く塗られている。胸の上部に幾何学的な紋様がラインを形成している。そして左胸に ”柔術“ の文字。頭部は丸く、目、鼻、口の意匠はあるが、これといって特徴はない。ボディも全体的にバランスのよい形状ではあるが特筆するようなものはない。しかしこのシンプルさこそが、アンドレが見せた、洗練された闘いを表現しているかのようだった。

「武くん、一体はジェントル・ジョルジュが引き受けよう。君はもう一体を頼む」

「わかりました」武は力強く返事をする。


 宇宙人ロボットと対峙したレスナーBは両腕のガードを上げ、慎重に動き出した。常に相手の構えの外側に位置するよう、細かく前後左右に動きながら、左のパンチで牽制する。

(闘いは組み立てで決まる)

 武の頭の中では、何度もしつこいくらいに言い聞かされたアンドレの言葉が繰り返された。

(自分のやりたいことを相手に押しつけることも時には必要だが、相手のやりたいことをやらせないことの方が重要だ)

 レスナーBはポジションを調整しながら少しずつ前に詰める。敵宇宙人ロボットはそうはさせじと打撃を飛ばすが、位置が悪いため効果的ではない。レスナーBのガードに弾かれる。

 武の目には相手の動きがよく見えていた。次になにをやってくるか、容易に予測できる。相手の攻撃しにくい場所にいるという、その単純なことだけで、こうも違うのか。武は自分が強くなっていることを実感していた。

 相手の打撃をさばきながら接近したレスナーBは軽く左を放ち、次にあえて大振りの右を上から振り下ろした。それに宇宙人ロボットが気を取られた隙に、両足を抱え込むように組みつく。そのまま勢いを殺さずに、相手を後方へ押し倒した。

「おお、テイクダウンに成功じゃ」博士の声。

 前の闘いで幾度も挑んでは跳ね返されたが、ついに成功したのだ。博士も美月も、今回の修業の成果を目の当たりにし、ぐっと拳を握りしめた。

 宇宙人ロボットは仰向けの状態で両足を上げ、レスナーBの胴体を挟み込む。レスナーBはその足の中でもかまわず、コツコツと鉄槌を落としていく。何度も何度も繰り返し、ダメージを蓄積させる。そしてついに動きが鈍った隙に、相手の足を片方ずつまたぎ、馬乗りになった。相手を押さえつけながら、大きなパンチを落としていく。そして、最後の重い右の一撃で、宇宙人ロボットは機能を完全に停止した。


「片付いたようだね」アンドレの声が聞こえる。

 武がモニターで確認すると、ジェントル・ジョルジュは腕を組んで立っていた。自身はあっさり敵を倒し、レスナーBの闘いを見守っていたのだ。

「見事な闘いだったよ。テストは合格だな」

「ありがとうございます」

 沈む夕日に照らされながら握手を交わすレスナーBとジェントル・ジョルジュ。

 その二体の長く伸びた影の先にまたやつら――並んで握手を交わすなんか変な子どもとおじさんと犬。

「このタイミングで旅行に来ててよかったですねぇ」と変なおじさん。

「ちょーラッキーだよな」と変な子どもが笑う。

 変な犬はしっぽを振りながら、目の前の美しい光景を眺め、ワンと吠えた。


 やったぜ、レスナーB。すごいぞ、ジェントル・ジョルジュ。

 君たちの活躍で今日も地球の平和は守られた。これからも頼んだぞ。


 いけ、ジェントル・ジョルジュ!闘え、鋼鉄巨人レスナーB!

 この星の明るい未来のために。


 第六話 完

 

 

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