時を超えて

佳上成鳴 カクヨムコンテスト参加中!

時を超えて 3049文字

 私の彼氏の孝之は不思議な人だ。話をしているとこれから起こる事を知っているように感じる時がある。例えば、デートをしようと計画を立てていてドライブに行こうと話していると、この日はここには行きたくないからこっちに行こうとよく言う。すると大抵行きたくないと言った場所は、天気が悪かったり、高速が事故渋滞したりする。最初はたまたまだと思って運が良かったと思っていたが、そういうことがあまりにも多い。でも他は普通で性格はいいし優しいし完璧だった。


「え?ショッピング?」


 厳しい夏の暑さも終わりが見え、秋の日差しに安堵感してきたある日、私は孝之と仕事帰りにご飯を食べていた。カルボナーラはチーズと卵の匂いが強く、口に入れると黒コショウのパンチが聞いててとても美味しくて、私たちはこのお店にまた来ようね、などと話していたが、ミツキが思い出したように孝之に告げた。


「うん、うちの会社のミキって覚えてる?その子と秋物の服買いに行こうって話になって」「ああ、ミツキと仲のいい子」「そうそう」「そっか。楽しんでね」「うん、行くのは今度の土曜日だから日曜日に会おうよ」「わかった」


 私は久しぶりのショッピングに行く計画に浮かれいて、孝之はそんな私を見てニコニコとしていて楽しい食事になった。私はどんな服を買おうかと色々考えて週末を迎えてうきうきと電車に飛び乗る。


「いやー買ったねぇ」「でも満足満足」「うんうん」


 沢山の購入した服を持って私とミキは楽しく街中を歩いていた。ブラウスにスカート、ちょっと早かったが気に入った冬物のコートも買って大満足してぶらぶらと歩き回る。


「ちょっと疲れたなぁ」


 と、ミキが言うのでカフェでも探して入ろうか。という話になってカフェを探して歩いていると、大声で名前を呼ばれて振り返った。そこには慌てた様子で孝之が私の方に走ってくる。


「ミツキ!」「え? 孝之?」


 予想してなかった孝之の登場に驚いていると大きな衝突音が聞こえてきたので、見ると、車があちこちにぶつかりながら猛スピードで走ってくる。


「えっ……」


 その一言しか言うことが出来ず、一瞬の事で私は立ち尽くしたまま車に轢かれてしまった。


       * 目を開けるとそこは病室だった。何があったのか思い出せずぼんやりしていると泣きながら孝之が声をかけてくる。


「ミツキ!」「……孝之」「良かった……良かったミツキ!」


 オイオイと泣く孝之を見て私は孝之の頭を撫でたが、自分の手を見て驚愕した。確かに私の意思で動かしている私の手は配線が張り巡らされ鉄のような物で手の形が作られている。まるでロボットだ。


「何……これ」「ああ、心配しないで。すぐに再生医療でミツキの手が出来るから」


 私には孝之が何を言っているのかわからず呆然としていた。


「俺……怒られちゃったけどミツキを死なせたくなかったからこっちに連れて来ちゃったんだ」「は?」


 こっちって、どっち?


「ここは3045年、ミツキからすると未来になるんだよ」  言葉も無く驚いているが、そうでも言われないとこの手が説明出来ない。こんな機械みたいな手は今の技術じゃ作れないと思う。でも信じられなくて孝之をただ見つめていると、それに気付いたように孝之は言った。


「信じられないよね、びっくりさせちゃってごめん。でもミツキの傷はミツキの時代では助けられなかったんだ。だから……」  でも未来を知っていたからデートの事前の変更があったり、事故の前に私の前に現れたんだと思うと合点がいった。自分の中の孝之への疑問が全て納得出来てしまったのだ。


「……うん、信じるよ」


 そう言うと孝之はパッと笑顔になり嬉しそうにお礼を言った。


「手を再生させたら元の世界に戻っていいって」「孝之も一緒に?」「うん、実は……過去の人間を未来に連れてくれると過去に強制送還されてしまうんだ。だから……この世界には戻れなくなる。それでも俺はミツキを助けたくて……」「そうなんだ……」「俺は歴史学者なんだ。勉強のために過去に飛んでいてミツキに会った。ミツキは誰にでも優しくて凄く笑ってくれて……あの日のこと覚えてる?俺にハンカチを貸してくれた日のこと」


 それは覚えている。孝之とは会社で出会ったのだが、廊下の隅でシクシクと泣いていたのを見つけて気になって声を掛けた。


「あの……大丈夫ですか?」「俺……会社の人と上手くいってなくて……俺の考え方がおかしいって……俺は会社の事を考えて言ってるのに……」


 そう言って涙をこぼす。綺麗な涙だなぁとぼんやり思いながらもハンカチを差し出した。


「あの、良かったらこれ」  差し出されたハンカチと私の顔を交互に見て、ありがとう。と言って受け取る。話を聞いてみると間違っていることを言っていなかったので知り合いの同僚に声を掛け説明してみると、同僚は、ああ! そういうことだったんだ! と、孝之の言いたいことをわかってくれたみたいだった。


「説明の仕方を考えれば良かったみたいね」


 と、笑いかけると孝之は、そうだったんですね。と微笑んだ。 その後、実は孝之が言っていたのは会社にとって重要な事で、それを実行してみたら会社の業績が鰻登りに上がって、孝之は会社から表彰されていた。


「俺、ミツキのおかげで皆んなに馴染むきっかけをもらえたんだ。それで……ミツキの笑顔が離れなくなって、告白したんだよね」「そっか。あの提案は凄かったよね」「実はあの会社に入社することになってこっちの世界で調べたんだよね。だからあの提案が出来たんだ」「そっかぁ」


 私はその後手の再生手術を受けたが、未来の事を見るのは禁止されているらしく、手術室に向かう時は目隠しをされてしまったけれど、無事に手を元に戻し、元の世界へと送られることとなった。


「ミツキ、俺と結婚してほしい」


 事故の出来事から暫く経ってから、両手一杯の薔薇を持って孝之はミツキに言い、ミツキは未来の技術で問題なく動いている手を使ってそれを受け取り微笑んだ。


「嬉しい……よろしくお願いします」


 その言葉を聞いて孝之の表情はパッと明るくなり汗を拭き始めたのでミツキは思わず吹き出してしまう。


「いや、そう笑うけどめっちゃ緊張したんだって」「ごめんごめん……ありがとう」


 笑顔から真面目な顔になってミツキは孝之を見つめて聞いた。


「未来を私のために捨てた事……後悔してない?」「全然!」


 そう言って孝之は微笑み、ミツキを愛おしそうに抱き寄せて続ける。


「未来ってね、意外と機械的なんだ。全てを機械がやってくれるからなのかな? 感情の起伏がないっていうか……で、歴史の勉強をしている時に過去の人はとても感情豊かで、行きたいって思って来たんだよ」


 ミツキは黙って聞いているが、感情がなくなるって寂しいな。って思っていた。


「だからミツキが笑ってくれた時、初めて見るくらい眩しく感じたんだ。未来では誰も笑いかけてくれた事はなかったことに気付いて……この笑顔の側にいたいって思ったよ」


 そう言ってミツキに微笑みかけながら続ける。


「俺、寂しかったのかも。だから自分の世界より過去の方が好きなんだ」「そっか……」 その後、私と孝之は結婚をし夫婦になった。笑いあいながら暮らしていこうと孝之は呟くように言って、ミツキはそうだねと返事をし、微笑む。


「また、あのカルボナーラ食べに行こうよ!」「そうだな、美味しかったもんな」「うん!」


 2人はあの味を思い出して微笑んだ。 時代も時間も関係ない、私たちはお互いの想いだけで生きていく。想いは時として何よりも強い。


 そしてその想いは未来へと紡がれていく──

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