第2話「二人の夕焼け物語」
3月が終わろうとしていた日に、真理が来た。
「清水公園に夕焼けを見に行こうか」と言うと、
「桜は散り始めているけど綺麗だよね」
「じゃ、明日の午後何時がいいの?」「夕焼けも見える5時でもいいよ」と言った。
翌日、晴れていた。清水公園の小山の上のベンチには5時を過ぎると誰も居なかった。
真理が下から一気に登ってきた。
目の前に立ち、紺色のワンピースにベルト姿で、腰に手を当てて「来たよ」と言った。
「どう、素敵でしょう」とクルリと回った。
「うん、可愛い」
「6時頃に日の入りだから下の桜を見に行こうよ」
小山から手をつないで駆け下り、桜の下のベンチに座った。
桜は惜しげもなく花びらを、枝から離し二人に降ってきた。
今日学校であった出来事を楽しそうに話した。
太陽は次第に山の端に近づき、茜色のグラデーションが美しくなってきた。
急いで小山に向かい走り出した。
西空にはいろいろな雲を従えて夕日が素晴らしい変化を見せていた。
「やっぱり夕焼けは良いね、二人だけの夕日が山に落ちてゆくね」と直樹が言った。
「真理、来てよかったね」と続けた。夕日が山に隠れると、雲も美しく変化して薄い青空に星が見え始めた。帰りは出入り口で別れて帰った。
3月の思い出の夕焼けだった。
4月になっても時々「来たよ!」とやってきた、勉強は熱心に続けた。
直樹はお付き合いした女性はいたが、こんなに愛を感じた女性は初めてだった。
真理は待つようになった、何時も同じ時間に来た。ニッコリ笑いながら
「来たよ」と言って入ってくる。
「直樹、海は良いよね、海の夕焼けが見たいよね~、いつか連れて行って」と言って手を合わせた。
直樹は父の車を借りた、夕暮れが迫る中、浜辺に着いた大勢に人が見に来ていた。
大きな夕陽が静かな海に落ちようとしている。
「海に沈む夕日は大きいね」と真理は感激した。
その場にいる人たちは感嘆の声を上げた。
一つの夕焼け物語が終わった。
その後も真理の「来たよ」の声が聞こえた。
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