第12話 やっぱり断るべき?
翌日。
緊張気味に教室を覗き込んでみたが、澄斗はまだ登校していなかった。
バレー部の氷堂をはじめとした他の面々もまだ教室にいないところを見ると、朝練が長引いているのかもしれない。バレー部のメンバーはみんな背が高くガタイがいい。彼らが不在だと教室が妙に広々して見える。
(……いや、なんでこんなに緊張してるんだ僕は)
努めて平静を装って、自分の席につく。
珍しくアラームの音できちんと目覚めてみて——……なんだか、変な気分だった。
昨日ここで澄斗と料理をして、一緒にご飯を食べて、夜道でたくさん話をしたことが夢の中の出来事のように感じたからだ。
でも、寝ぼけ眼でスマホを見てみると、昨晩やり取りした澄斗とのメッセージがしっかり残っている。
昨日の楽しかったあの時間は、現実なのだ。
(んー、けどやっぱり図々しかったかなあ……。バレー部はハードだっていうし、もし彼女がいるとしたら? 僕なんかが澄斗のフリータイムを奪っていいのか?)
昨日そういう話題にならなかったから確認できなかったけれど、澄斗には彼女がいるのだろうか?
……うーん、あれだけモテてモテてモテまくってる澄斗のことだ。いないわけがないだろう。
学校内のゴシップに詳しくはないが、華やかな男女が常に澄斗の周りに壁を作っているわけだから、あの中に交際している相手のひとりやふたりいて当然のような気がする。
僕は頭を抱えた。
どうしよう。恋愛なんかにまったく縁がないから、昨日はそこまで考えが回らなかった。
きっと彼女は澄斗の貴重な時間を奪う僕を恨むだろうし、しなくてもいい喧嘩のタネになる可能性もある。
(……ど、どうしよ。身のほども弁えず、僕ときたら……)
——やっぱり断ろう。
料理なんて、動画でもなんでも見ながら自分でなんとかすればいいじゃないか。家庭の事情がどうであれ、こんなプライベートなことで人を頼るべきじゃない。
(断ろう。うん、やっぱり大丈夫って言おう。どうしよう……LINEでいいかな)
澄斗ひとりならまだいいとして、陽キャ軍団の中にいるあいつに声をかける勇気もない。
僕みたいなのが「ちょっとすいません」と割って入れる空気ではないのである。
ならばやっぱりメッセージを送ろう。僕はごごそごそとポケットからスマホを取り出した。
(……あれっ?)
澄斗からメッセージが入っている。
昨日から多少やり取りをした澄斗のアイコンは、デフォルメされたポメラニアンだ。
舌を出して笑っているような顔をした愛嬌のある犬のアイコンをしばし見つめて、震える指でタップする。
(なんだなんだ? なんの用だ……? やっぱり忙しいからパスで! とか澄斗から言ってくれたら気が楽なんだけど……)
緊張で忙しない胸を宥めるべく深呼吸して、メッセージを読む。……が、なんのことはない。
アイコンに似た雰囲気の可愛い犬が『おはよう』と肉球を見せているスタンプが送られているだけ。しかも二時間ほど前に。
(……え? え? な、なんでこんなスタンプを送ってきたんだ?)
友達と用事もないのにメッセージを送り合うような週間は僕にはない。
このスタンプにはなんらかの意図があるのか、それともただの挨拶なのか、僕にはまったくわからない。
深読みしすぎてだんだん頭が痛くなってきた。
だがしかし、返事をしないのも悪い気がする。
仕方なく、手持ちのスタンプの中から可愛げのあるものを探したけれど、普段ほとんどメッセージアプリを使わない僕のスマホにはデフォルトのダサめのスタンプしか入っていない。
ためらったが、それをポンと送っておく。
やがて廊下が騒がしくなってきて、バレー部やサッカー部などの朝練組が教室に入ってきた。
その中に澄斗の姿を見つけてどきりとする。
澄斗のまわりには、今日も御子柴くんをはじめとした活発でイケイケな仲間たちが群れをなしていて華やかだ。
僕はサッとその集団から目を逸らし、頬杖をついて教科書を読むふりをした。
のんびりしたチャイムの音が鳴り響く。
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