第7話

 小畑は、従業員である高橋を死なせたことによって、責任を追及されていた。

 事故死であるのだが、そもそも、自分の都合で、会社の従業員を動かさなければこんなことにはならなかったのだ。


「社長。私もこの調査を終わらせていただきます。あとは、警察の任せましょう」

「おい、ちょ...」

 そう言って電話が切れた。

 すると、警察の男がやってきた。

「小畑誠二郎様。この度は本当に....」

「悔やんでる暇があったら、早く犯人を逮捕しろ!!」

 そう叫ぶが、何やら男は、口をつぐんでいた。言葉が見つからないというより、言わなければならないことを言うか迷っているというようだ。

 いや、迷っているのではない。

 警察と言うのは、組織人だ。組織人であるか、人であるか、そのはざまで揺れているのだ。

「実は...お伝えしなければならないことがあります...」

「な、何ですか...」

「捜査の規模が縮小されてしまいました」

「どういうことですか!!」

「殺人事件であれば、捜査規模を拡大すれば、警視庁に移行されるのですが、それがされずに、内々で処理をするということです」

「何でそんなことに....」

「捜査を外されているので何とも....」

「では、どうするのですか?」

「私も、一個人として捜査をしていく所存であります...」

「どうやって...」

「群馬県警の知り合いから、とある情報を得ました」

「え」

「あなたの従業員が一緒に乗っていた、明日葉あすなさんですが、彼女は、大塚に狙われていたのです」

「というと?」

「あなたの従業員は、大塚を見つけましたが、何者かに邪魔をされ、捉え損ねてしまった。しかし、大塚から逃げている途中の明日葉氏を途中で保護し、そのまま、飲酒運転のトラックにはねられたということです」

「それが....」

「話は、まだあります。その邪魔をしていた男と言うのが、衛生省だというのです」

「衛生省...」

「我々が逮捕すべきはその衛生省の男たちです」


 高岡首相が、売春禁止法案を可決させようと、国会に圧力をかけていた。世論は、売春、ひいては、性産業をどう扱うかという議題に、ネット上で火花を散らしていた。

「男の去勢化を強制するべき」

「男が性欲をなくせば、世の中が平和になる」といった、糞フェミニストの意見や、売春は、やるのは仕方ないけど、買う方は、異常者だから、逮捕するべきといった極端な意見ばかりが散見されている。


 これは、人の常と言うもので、平凡な意見は注目されないのだ。

 そして、注目される意見の様相も時期や時代によって変わっていく。


「一匹、一匹、殺していくのって非効率だと思わない?春陽君」

 岡田は、春陽に話しかけた。まるで日常会話とでもいうように、話す声色に、春陽は違和感を覚えながらも、返答した。

「はい」

「だよね。ヒトラーみたいにさ、強制収容所に連れて行って、毒ガスでも撒いてさ、一網打尽にしたいじゃん?」

「.....」

 何と答えていいか分からないが、相槌を打っておいた

「でも、それだと、殺す人が増えちゃうんだよねえ」

「なぜですか?」

「AV女優本人だけを殺せればそれで問題ないんだけどさ、急に拉致したら、経済止まっちゃうでしょ?行方不明で警察に届けられると、捜索しないといけないし、協力者何人ってことになっちゃう。男優とかカメラマンとかマネージャーとかスカウトマンとか、スタジオを貸し出した人まで殺すのは、さすがに可哀そうかなって」

 続けて、話を続ける

「それに、君みたいな子供を助けたいのに、シングルだったら、それも支援しないといけないし、本末転倒ってことでしょ?子供の為に稼いでるわけだから、子供も要因の一つとして、みなさないといけない。だったら、バイトをくびにした店長も対象にしないといけないのって、際限がなくなってしまう。だから今のところは、一人一人、警察と連携しながら殺していくしかないんだ」

 分かったような分からなかったような、右から左に話が流れるような感覚を覚えた春陽であったが、自分がこの運命から逃れることができないのは、分からせられた。


 ドバイの空港から、4,5人の女が帰ってくる情報をキャッチした。彼女らは、数日前、インスタグラムに、高級バックやら、高級アクセサリーやらを自慢する内容の投稿をした。


「今ドバイにいまーす」とのことだが、とあるユーザーがコメントで、とある金持ちが、クルーズ船に女たちを乗せ、黒いヤギと獣姦させたり、排泄物を飲ませたりした挙句、海へ捨てているらしい。とのうわさを流した。


 人々はそれを誰も信じなかったが、その投稿主が、アカウントを消したことにより、信憑性が増してしまったのだ。


 すると、その「ドバイ案件」と呼ばれるものに関する証言が次々と出てきた。眉唾なものもあるが、人々はそれを面白がった。その「ドバイ案件」に行くものの全てと言ってもいいが、水商売やそう言った人種がスカウトされるとのことであった。


「さーあて。ぶっ殺していきますか」

 岡田はそうつぶやいた。


 

 

 

 

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