第6話

 和久井は、群馬県のとある村に来ていた。そこに築50年以上になるアパートを借りている。

 新たなターゲットがいるからだ。俺はこれ以上どうしようというのか...

 俺の全財産を奪って、逃げた女を殺したはいいものの、そこから先は生きる活力は湧かないが、かといって、岡田に逆らう気はない。

 和久井はこれから殺す女の画像を見ながら、岡田と出会った時のことを思い出す。

 あれは、裁判所の前だった。

 あの感情を忘れることはできなかった。

 文面だか、直接言われたのかは忘れたが、「この訴えを棄却します」そう言われたのだ。

 事務的な態度に腹が立った。女が腹の中で舌を出していると思うと腹が立った。俺は怒り狂いそうになった。しかし、岡田の顔を見るとそれがすっと収まった。

「この女性を殺したいですか?」

 俺は黙った。何も言わないでも、答えが分かったのか、岡田は

「ふふふ。そうでしょう。自分としては、お金を貸したつもりなんですからねえ。それで返さないのはおかしい。しかし、相手に返す気はない」

 岡田は、淡々と語る。

「これは運命なのです」

「運命?」

「ええ。幸運です。何せ、私に出会えたのですから」

 岡田は俺の財布を奪った

「な、何をするんだ!!」

「身分証はこれだけですか?」

「あ、ああ」

 男はそれをポケットにしまい、財布を返した。

「あなたは、どこも雇ってくれないでしょう。ストーカーを雇うもの好きな会社なんてありませんから」

「う...」

「ですが、新しい身分なら、行けるんじゃないですか?」

 岡田は、新たな免許証を渡した。

「これは....」

「ふふふ。それを持って、私が言うところでしばらく働いてください」

 そして、その後に、浅野麗美の住所を見つけ、奴を殺した。

 俺はこれで終わるはずだった。

 警察に捕まって、牢獄にぶち込まれて、前科がついて、野垂れ死ぬ。しかし、そうはならなかった。

 近所の者が通報して、それで終わりのはずだった。

 しかし、そうはならず、死体の発見は、翌朝となった。

 理由は分からない。

「あすなちゃん。お疲れ様」

 疲労困憊の中、長身の女は、民家から出ようとしていた。

 身長175㎝。青森から上京してきた女は、民家を貸し切り、交尾を撮影し終えた。

 早朝から、深夜までの過密なスケジュールをこなし、家に帰ろうとしている。

 撮影隊は撤収し、あすなは、タクシーを呼んだ。

 民家の中で待っていると、一人の男が侵入してきた。

 チリチリな髪質の、ヤニのにおいが染みついたスカジャン。細身で、髭を生やした不潔な男がいつの間にか、民家の居間に当たる所にいた。

「ど、どなたですか?」

「あんたを殺すように言われている」

 男は、包丁を出した。

 あすなは、後ずさりつつ、逃げた。

 男はそれをゆっくりと追う。

 あすなは、玄関まで逃げた。

 タクシーが来るまで時間がある。

 男も玄関から出た。

 しかし、女の姿は見えなかった。

 探し回ろうとするも、暗くてよく見えない。

 すると、横から、革靴がけりこまれた。

 男の体は、「く」の字の曲がった。

「だ、誰...?」

「O.S.株式会社の者だ」

 オールバックで長身の男は言った。

「大塚智弘だな...」

 そう言われ、男はにっとした。

「そうだったっけな」

 和久井は、腹を抱えていた。ひざを着いている。O.S.株式会社の男は、和久井の顔を蹴った。それにより、意識を失う。

 O.S.株式会社の男は、和久井を縛って連れ去ろうとしたが、突然横から銃弾が通過した。

「くくく。仕事の邪魔をしないでもらえるか?」

 スーツの男が、O.S.株式会社の男に言った。

 男は、その銃弾を避けるようにその場から逃げた。

 数分後、外でクラクションが鳴った。

 その音で、和久井は目を覚ました。

「お客さん、どちらまで?あれ?女の人じゃないの?」

 タクシーに乗った和久井はそう言われた。

「そこまで行ってくれ」

「は、はい...」

 女は配車アプリで、タクシーを呼んでいたので、自動的にその場所までつくが、本人確認をしなければならない。

 男は、身分証を見せた。

「え、衛生省?」

 すると、タクシーの運転手は

「その女を追えばいいんですね」

 そう言った。

「話が早いな」

「省庁の人を乗せることもありますのでね...まあ、ここで行われた会話は誰にも話しませんが、お客さんがどんな人かは分かってます」

 一方、あすなは

「助けてください。変な男に追われてて...」

 それが、小畑が経営している会社の社員だった。

 男は、和久井を怯ませてから、自分のくるまにあすなをのせてそのまま逃げた。

「どこまで行けばいいですか?」

「取り敢えず、見つからない場所へ....」

 その間に、タクシーとすれ違ってしまった。

 キャンセルをしようにも、その時間が遅すぎた。本人がいない以上、自動的にキャンセルとなるだろうと思っていたが、タクシーは和久井を乗せていたのだ。

 O.S.株式会社の男は、田んぼと畑の道を走っていると、対抗からトラックが走ってきた。

 すると、そのトラックが、徐々に迫ってきたのだ。

「まさか...」

 O.S.株式会社の男の車は、トラックに突撃することになった。

 その数分後、和久井はタクシーを音があった方に行くように指示した。

 トラックは、O.S.株式会社の男の車を引いた後、何事もなかったように去っていった。

 和久井は、O.S.株式会社の男の死体と、あすなの死体を確認した。すると、電話がかかってきた。

「和久井さん。おつかれ。次の仕事があるから、そのアパートは早い事、引き払っといて」

 岡田から一方的に言われた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る