第16話 瓦版

木版印刷に関して、文字を作っていくのがわりと手間だなと思っていたが、一瞬でその手間は解決するようになった。……まず最初に、木の板に自分が原稿を書く。


その後、ティベルが魔法で原稿を書いていない部分だけ木の板を削り取れば版木は完成。……一番重要なところをティベルに任せることで、一番面倒な部分を省略出来るようになった。いずれは彫師を雇うけど今は頼るか。


あとは紙を用意して大量に刷ることで多くの人へ宣伝をすることが出来る。で、ここで人を雇いたいのは延々と紙への転写作業をする人と、街の人へ新聞というか瓦版を配る人の部分。


最初だから当然だけど、無料配布の予定だ。タダより高い物はない、というのをこの街の人は経験することになるだろう。だがいずれは1枚30エン程度で売る予定で、売り子は金の回収作業を任せることになる。……報酬を1枚10エンの歩合制にすれば持ち逃げとかは無さそうか?


そもそも紙の値段がわりと高いんだよな。大量生産出来るのに需要があまりなかったからか、1枚10エン程度はする。……これ瓦版自体は売っても売っても黒字にならなさそうだから広告費で稼がないと辛い。瓦版の値段を1枚50エンにするべきだろうか?そこぐらいまでなら競合も入ってこないか?


問題は広告効果の証明になってくるのだが、とりあえず繁盛していない店を発見したのでそこの店主と交渉をする。3日間観察して、恐らくだが客は自分達以外に1人しか入ってない。


出て来る料理は飛び抜けて美味しいわけじゃないけど不味くはないし、値段設定もちょっと高いけどそこまで高いわけじゃない。ただまあ、店主の顔が結構厳つくて外から見ると怖い。初めて店に行った時にちょっと話を聞いたが、元冒険者でそれなりに有名だったようだ。


細かなマイナスポイントが積み重なって、それなりに広い店なのに常にガラガラという悲惨な状況。広い店で客が一切入ってないと入り辛いという心理効果も相まって、恐らくは元冒険者仲間と思われる常連さん1人しかこの3日間で店に入ってなかった。


「らっしゃい。って、2日前に来た嬢ちゃんじゃねえか」


今回、2度目の訪店になるわけだが2日前に来たことを店主が憶えている時点でちょっとアレ。……料理の腕は悪くないんだよなあ。ただ顔に大きな傷があって、どう見てもヤーさんな外見で怖いだけなんだよなあ。


「今日は一昨日食べたステーキじゃない奴を食べたい」

「とのことなので何かボリュームのある料理を2人前」

「お、今日はそっちの兄ちゃんも食うのか。

金はあるのか?」

「予算は3000エンで。

たぶんティベルはおかわりするからその分は追加で払います」


この店一番の料理でステーキ出して来るのはまあ良いんだけど、ステーキは出すところ多いというか肉を焼くだけだからハリスの街ではわりと供給過多な料理になっている。差別化出来るとしたらステーキのソースぐらいなんだけど、この店のソースは何というか微妙。トマトみたいな野菜をペーストにした感じのものだから酸味が結構あるんだけど……その上で妙に苦みが入ってるのは何かもう台無し。


……そしてこの店、メニュー表がない。予算と希望メニューを伝えることでこのおっさんが料理を始めるんだけど完成まで待たせるストロングスタイルである。これで調理の手際が異様に良く、5分で料理が出て来るなら良いんだけどステーキで20分ぐらい待たせてるからなこのおっさん。


あまり儲けとかは気にしない感じなのだろうか。冒険者時代の貯蓄が使いきれないぐらいあるから道楽で店をやっているとしたら経営状態を助けるメリットはない。だけどまあ、このおっさん客いないのに対しては嘆いている感じだし客入ったら嬉しそうではある。


今も鼻歌謳いながら料理しているしな。そして出て来たのは山盛りのチャーハン。結構具材は多いし味付けは濃い目だから1人前1500エンだとしてもそこまで高いとは……いや高いな。たぶん他の店ならこれに加えてスープとか付いてくる。


なんというか、大雑把な経営をしているのは見て取れるし後はこの店主の金銭状況を探りたいんだけど……。げ、客が来た。流石に赤字経営だろうが常連客は少なからずいるのか?


「げっ……」


そんなことを考えていたら、店の中に入って来た客を見て店主が嫌そうな表情ををする。……入って来た客の身なりは良さそうだし、自分達がいるのを見て店主に奥へ案内するよう要求してるし、金貸しっぽいな。


「……さっきの人、お金いっぱい持ってる」

「何で分かるんだそんなこと。

……魔法で金を探れたりするのか?」

「ん」

「なるほど、だから金の流通量多いんだ」


ということはまあ、相当厳しそうであることは確定した。後は自分達がコンサルすると言って、向こうが受け入れるか否かか。

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