第9話 大陸
船が出航してから2日目の夜。無事に大陸側の沿岸というか灯台を目視出来るようになったのだけど、夜に接岸してもどうせ人も物も捌けないから一晩ここで過ごせとの指示が。
「港もいっぱいやし、明日の朝すぐに降りるのも難しいかもしれん」
最初に塩飴くれたおっさんがわりと面倒見てくれていた感じだけど、どうやら船乗り達は客がいた場合、数組を纏めて1人の船員が面倒を見る感じのようだ。まあ客室で船酔いのせいで吐かれたりしても困るし、客の持ち込んだ食糧や水が足りてない場合は船の中で販売したりとやることは多そうだしな。
船の中で水を買うとコップ1杯で1000エンとかいうわりとぼったくり価格になるけどこれに関しては持ち込みサボった奴が悪いという。むしろコップ1杯で1万エン取らない辺り良心的だよここの船乗り達。
そして二度目となる船の中での睡眠だけど、揺れが酷くてあまり眠れない。昨日眠れなかったから今日はちゃんと寝たいんだけど帆船の揺れを舐めてた。
「……こういう時、番を頼らないのは駄目」
「え、揺れをどうにかできるの?」
「海を鎮める魔法は流石に時間がかかる。
だけど、揺れない寝床なら」
若干気分も悪くなりつつあったところに、ティベルが空中ベッドを出してくれた。……うわ凄い。影っぽい闇で出来ているのに低反発マットレスみたいな感じになってる。横たわると沈み込んでいく感じで気持ち良い。
これならぐっすり眠れそうだと思ったところでティベルが馬乗りになる。嘘でしょ今からするのと思ったら、そのままうつ伏せの体勢になったティベルの身体がぽかぽかと暖かい感じになった。……何でそんなに多機能かつ高性能なのこの子。海の上だと微妙に寒いから助かる。暖房なんてこの世界ないからな。
季節的に今は寒い時期だと思うし、ティベル湯たんぽが凄く心地よくてありがたい。……たぶん自分の気持ちを読み取れているから、丁度良い温度に調整出来ているんだよな。体勢的にやましい気持ちが若干湧き上がるけど疲れの方が大きいからぐっすり寝れそう。
そして翌朝。起こしに来た船乗りさんに「お前ら兄妹なのにそういう仲なのか」的な視線を頂いたけど、衣服は乱れてなかったし、単にくっついて寝ただけだと言うと誤解は解けたので助かった。闇ベッドに突っ込まれなかったのは持ち込んだと思われたのかな?それか他人には認識出来ていない?
……とりあえずティベル側はこれ寝てないな。半年眠り続けられる存在であり、逆にいえば半年起き続けることの出来る存在である。
一晩眠らないぐらいはどうってことないだろうし、そういえば最初に会った日も「7時間も目を覚まさなかった」的な理不尽なこと言われた気がする。……まあまずは下船して朝ごはんにするか。
船の目的地である大陸側の都市ノーマンはかなり巨大な港を持っており、桟橋が大量に見えるし船の数も多い。流石に大陸側でトップクラスに大きいと言われるだけあって人の数も相当だなこりゃ。商船も多いのか、商人みたいな人が多い。
……お、奴隷の集団を引き連れている人とかいるな。どこかの都市から奴隷を輸送したのだろうか。扱いは前まで居たコークの街よりかは悪そうで、肌着もボロい。どうやら島側と大陸側で結構文化が違いそうだ。まあこの国の大陸領土はほとんどが100年以内に占領された比較的新しい領土だから、元からある土着の文化と衝突してそうだ。
「この街に住んでたことがあるんだっけ?」
「ん。もう50年以上前、この姿をしていない頃に少しだけ」
「何で出て行っちゃったの?」
「当時の勇者に見つかった」
「ああ……」
「3年ぐらい住んでいたら周囲の動物や海の生き物が全部魔物になった」
「それは見つからない方がおかしいね」
ティベルが以前人の街に住んでいたというのはこの街のようで、普段なら1年もせずに周囲の動物の魔物化が始まるのにも関わらずこの街だと3年も保ったそうだ。まあ海の生き物が多く変容したから地上ではそんなに影響がなかった説はあるけど、その当時から人が多かったのも影響してそうだな。
「人は魔物にならないんだ?」
「なる。死体が」
「……ゾンビ化かあ」
「違う。スケルトン」
「火葬文化把握」
ティベルはどうやら1箇所で定住するのが難しいようだから、3ヶ月ぐらいのスパンで移住し続けるしかないのかな。まあ本人そんなに1箇所に定住することはこだわってないみたいだけど。アイルランドに当たる島の最北端に住んでいたのは単に人が寄り付かない地域だったかららしいし、あそこは元から魔物が多かったみたいだ。
で、大陸側は火葬文化という憶えておくと金稼ぎに使えそうな知識も仕入れた。たぶん島側は土葬してるんだよな。……この世界の宗教についても把握しておくか。島側に教会っぽい建物はなかったと思うけど、ノーマンには高台に教会っぽい建物が見えるんだよなあ。
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