第4話 散策
島の最南端にある、島で1番大きな街にやって来たティベルと自分は、まず勇者の持っていた金貨で料理を食べる。流石に港町だけあって、活気があるし木造住宅じゃなくてレンガ造りの家が多い。
もうなんか諸にヨーロッパ風な感じだし、食堂でおばちゃんに話を聞く限り、この街を治めている領主は善政を敷いているのか税は低いようだ。人に税がかかるんじゃなくて土地に税がかかってるっぽいね。
「……ん、人間の作る料理はいつも美味しい」
「そういう人外視点発言は小声でも控えてね?
うん。塩胡椒があって、街の食堂でもそれが使える辺りは食文化面で当たりだな」
「あるじも異世界人丸出しの反応ダメ。
おばさん、おかわり」
「……いや本当、よく食べるね?」
「1万エンまでって話はちゃんと憶えてる」
この食堂に寄った理由はティベルがお腹を空かせたからだけど、元の身体で活動すると人型に戻った時に凄まじくお腹が空くらしい。人型がエコモードなのは擬人化あるあるだな。
……実際、あのドラゴンサイズで1日活動すればイノシシのような魔物を3体は丸呑みしないとお腹が空いて力が出ないらしい。運動したり戦闘するならもっと、とのことなのでイノシシ数頭を1食で食べるレベルだろう。ドラゴンが少食なイメージないし。あの体躯からすると妥当だし。
自分はさっき肉の塊を食べたからそこまでお腹は空いてないけど、とりあえず食文化のレベルを推し量るために米を使った料理を注文した。……料理名だけ見てもピンと来ないけど、とりあえず異世界語が読めるのは助かる。言語関係は流石に召喚時にインストールされてるというか、そうじゃなかったら自分は最初ティベルとの会話出来てない。
食堂のおばちゃんに説明で米料理とだけ言われた料理は、実際に注文すると卵雑炊のような食べ物が出て来たんだけど、味付けが塩胡椒だけでも結構食べられるというか普通に美味しい。さっき食べたイノシシのような魔物の肉と野菜も入っているから、普通に1食分ある。女性ならまず間違いなくこれだけでお腹いっぱいになるだろう。これで500エンは安いかもな。
……異世界なのに通貨単位がエンなのは、日本人が勇者として召喚された時に通貨価値の一新でもやったんだろうか。勇者が持っていた金貨は1枚10万エンで、それを数枚持って来ているから当面の資金はある状態。ちなみに銀貨1枚で1000エン。銅貨が100エンで石貨が10エンという何とも言えない感じの通貨制度。普段の生活は銀貨、銅貨、石貨で全部やり繰り出来る範囲かな。
金の算出が多いようだから金本位制でもなんとかなっているし、流石にこの文明レベルで紙幣の導入は難しかったようだ。……パンが1個100エンで売っている辺り、感覚としては一昔前の日本とほぼ同じだろう。そこらの宿は素泊まりだと1泊4000エンから8000エンぐらい。高いところだと1万エンを超えるってところかな。
ちなみに金貨100枚分の金が使われた金の延べ棒が1本1000万エンで扱われるそうなので、それが通貨の最大単位だろう。ティベルのねぐらというか神殿に金の延べ棒が数本転がっていたのは憶えているので、たぶん昔ティベルが街を襲った時に回収していたんだろうなぁ。
1本ぐらいなら持って来ても良かったかもしれないけど、まず間違いなく悪目立ちするし、金貨だけでもわりと怪しまれたので結果的には持って来なくて良かった。あの金の延べ棒は、もう少し自分達の知名度と社会的地位を上げてから活用しよう。それまでにあの神殿に侵入者が来なければ良いけど、周囲の魔物達が強いから「勇者以外の人間はまず入ってこれないはず」とティベルは言っていた。
「……1万エンまでって言ったらきっちり1万エンだったな」
「計算は出来る。美味しかった」
結局ティベルは大量のパンと何かの動物の生ハム、自分が食べた雑炊にブラッドボアのステーキと満遍なくこの食堂の料理を堪能してきっかり1万エン分を飲み食いしていた。これで腹は半分ぐらいしか満たしてないって嘘でしょ……?
あまりにも大量の料理を食べるので、こっそり食堂内で食事中のティベルのお腹を触ったけど、大して膨れてなかったしスベスベだったしで身体はどうなっているんだという疑問しか湧かなかった。……お腹触ったことで若干ティベルが発情したのは見逃さなかったしたぶん弱点。
食堂でご飯を食べた後は、宿を取って今日は軽く市場調査でもしようと思ったんだけど、昼過ぎだともう露店はほとんど店仕舞いしている。朝早くに商品が並んで、昼前には消え去ってるのが平常通りってことかな。……冷蔵庫とかはないっぽいし、特に食品を扱う商人は在庫を抱えない程度の量しか仕入れないんだろうなあ。
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