第54話 ★
***???サイド******
「何?森が動くだと?」
とてつもない威圧を感じ、部下が頭を深々と下げた。
「はい。水の精霊様からの声を聴いたと。聖女様がおっしゃっておりました」
森が動くというのは、風の精霊が移動するということだ。
すぐに宰相は頭を押さえた。
風は、植物の呼吸を整える。現代知識で説明すれば、光合成に必要な二酸化炭素と酸素の供給。風が吹かなければ空気はかき混ぜられず木々は枯れてしまう。
また水分の蒸散を促し、病害虫の発生を抑える効果もある。
寒い日にはあたたかな空気を運ぶ。
花粉を飛ばし、匂いを運び種を運ぶ動物を呼ぶ。
雨を降らせる雲を運ぶのも風だ。
「風の精霊が作り出す巨大な森は、魔物の住処になっておろう」
「はい」
「森が人里に近づいてくれば、それだけ魔物に生活が脅かされる」
部下は青ざめた顔のまま頷いた。
聖女様の言葉を聞いたその場の者たちも同じように頭を抱えていた。
「風の精霊はエルフの魔力の味を好んで愛し子に選んでいたであろう?森から出ないエルフだからこそ、何千年も森はその場に有ったというのに……」
宰相の言葉に、部下はただ頷くしかない。
この国の貴族であれば学園の歴史の授業で習う話だ。
「人間であれば、森が形を成す前に寿命が付き、風の精霊はまた別の愛し子の元へと移るだろう……もし、エルフであれば……」
寿命が尽きるまでその場にとどまれば大変なことになる。
2~300年もあれば森となり街が飲み込まれるだろう。
500年もあれば魔素が高まり、魔物を生み近隣を脅かすだろう。
1000年もあれば国の一つや二つ簡単に亡ぶだろう。
宰相は、陛下へと重い足取りで報告に上がった。
「我が国へと森は移動するのか?」
陛下の言葉に宰相が答える。
「まだ、どうとも……ただ、移動するという話を聞いたにすぎませんので」
「なるほど。では、我が国に来るとも限らんということだな他国ならば、ほっておけばよかろう」
陛下の言葉は投げやりだ。
もしかすると面倒ごとから目をそらそうとしているのではないかと宰相は懸念する。
影響が出始めるのは陛下が亡くなった後だろうし、自分は逃げ切れるとでも思っているのかもしれない。
「我が国だった場合は、歴史ある国が亡びの危機を迎えるかもしれません」
脅すような言葉を使うしかないかと、宰相は口を開く。
「陛下の御代に、森の移動を精霊様より告げられたとの記録が残ります。陛下が行った施策も記録が残るでしょう。もし、何も対策せずにいれば、後の世に……」
無策で国の滅亡を招いた王として歴史書に記される可能性に陛下が思い至ったのか、慌てて口を開いた。
「え、エルフが定住するのが問題だろう?だったらエルフを国から排除すればいい。森に追い返せ」
宰相が難しい顔をした。
「無理にエルフを国から追い出すとなれば、身を隠してしまうかもしれません。街中でしたら発見できるかもしれませんが、山に隠れ住まれてしまえば見つけることは困難になるかと……」
陛下が宰相をにらむ。
「ならばエルフと交渉すればよかろう。森に帰ってくれるなら金でもドレスでも宝石でも欲しいものを与えると。退屈だというなら、楽団や劇団を定期的に派遣すればいい。おいしいものが食べたければ料理人を送り、珍しいものが見たければ商人を送ると言えばよかろう?」
宰相が難しい顔をする。
「どのように?」
「どのようにって、予算をつけて希望者を募るなりなんなり、それは宰相のお前が考えることだろう?」
「軍を動かしますか?」
「はぁ?」
宰相が陛下の驚く声に何もわかっていないのかとため息をこらえて言葉を続ける。
「魔素が強く多くの魔物が住む森の奥へ楽団を送るなど、軍を動かしても無事に戻ってくる保証はないでしょう」
ぬーと、陛下がうなる。
「手練れの、S級冒険者と言えども、採取依頼は受けても護衛依頼は依頼人の命の保証ができないからと断ると聞いています」
陛下が癇癪を起して、足を打ち鳴らす。
「えーい、忌々しいっ!いっそ人間の国に姿を現したエルフは皆殺しにしてやれっ。そうすれば恐ろしくて近づくことはないだろう!」
宰相が慌てて止めた。
「風の精霊の愛し子を害するようなことがあれば、それこそ一夜にして国は滅びます。直接愛し子を殺さなくとも、愛し子がエルフの敵を滅せよと精霊に願えば……」
「ぐぐぐ……くそっ、くそっ、くそっ!」
ガンガンと椅子の肘あてに拳を打ち付けると、はっと陛下が立ち上がる。
「そうだ、いいことを考えたぞ。我らだけが犠牲になることはない」
陛下の思い付きを聞き、宰相はそれも致し方がないのかと息を吐きだす。
「近隣諸国と話し合いの場を設けましょう。打開策が見つからなければ、陛下のおっしゃる方法も検討いたしましょう……」
ちびっこエルフの料理改革~なんでも食べるよ元日本人だもの~ とまと @ftoma
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