第48話

「どうしよう、グリーンモンスター、私の手には負えない……ヴァルさんを呼んでこないと……」

 猛ダッシュ。

 保存食生産拠点まで走っていくと、ちょうど森からヴァルさんが何かを抱えて出てきた。

「フワリ、どうした?そんなに走ったら転ぶぞ!」

「グリーンモンスターが、はぁ、はぁ、グリーン、モンスター……が……」

 息が切れてうまく言葉が出てこない。

「モンスター?魔物が出たのか!」

 手に持っていたものを躊躇なく手放すと、ヴァルさんは地を蹴った。

 私に向かって全速力で駆けてくる。背中のルツェルンハンマーを右手に持ち、あっという間に私の元へとたどり着くと、左手に抱き上げられた。

「魔物はどこだ?」

 当たりを警戒するヴァルさんの頭をポンポンと叩く。

「違うよ、魔物じゃない。グリーンモンスターが生えてたの!」

「は?魔物が生える?……トレントか?マンゴドラか?」

「んー、違うよ。魔物じゃなくて、グリーンモンスターと呼ばれる繁殖力の強い植物。あまりにも繁殖力が強くて、駆除できないからモンスターって呼ばれてるだけで、魔物じゃないの!」

 ヴァルさんがほぉーっと息を吐きだした。

「そうか。魔物じゃないならよかった……。で、魔物から逃げていたわけじゃないなら、なんであんなに必死に走ってたんだ?」

 にこにこと笑って答える。

「ヴァンさんに早く会いたかったの」

 ヴァンさんがルツェルンハンマーを背中に戻すと、ぎゅーっと私を抱きしめた。

「そうか、そうか、寂しくなったのか」

「違う」

「……もしかして……どんぐりの皮むきに戻ってほしかったのか?」

 探るように小さな声でヴァルさんが尋ねる。

 逃げた自覚はあるんだ。ふぅーん。

「……ふぅ。体もほぐれたし、またどんぐりむくよ」

「それはいいから」

「いいのか?」

 めちゃくちゃ喜んでますけど。そんなにいやかな?まぁ、すごくめんどくさいけど……。

「白い粉作るの手伝って」

「し、白い粉って、あれか?タッタゲー作るのに必要な、あれか?」

 さらにめちゃくちゃ満面の笑み。

 ……違う。

「竜田揚げは作らないよ。白い粉も食料として持っていくの」

 だいたい出来上がるのは白い粉は白い粉でも片栗粉じゃないし。

「私だと、掘るの大変だから、ヴァルさんが根を掘ってくれる?葛の」

 そう、作るのは葛粉。

「ご、ごめんフワリ。今度はちゃんとどんぐりの殻をむくのから逃げないから……クズだと思われても仕方がないけど……」

「クズ?……」

 「……」

「違う、ほら、あそこの森からはみ出てる植物が、繁殖力が半端ないグリーンモンスターと呼ばれる、葛だよ。葛、葛、知らない?」

「う、うう、う、そう何度もクズ、クズと……」

 落ち込むヴァルさんの頭をなでなで。

「ヴァルさんはクズじゃないよ。あのね、あの植物の名前が葛っていうの。白い粉が取れてね、白い粉……葛粉はすごいんだよー。片栗粉の代わりにとろみをつけたり、ゼラチンの代わりに固めたり……それに何といっても葛根湯っていう漢方薬にもなるの!」

 ヴァルさんが首を傾げた。

「ゼラチン?葛根湯?漢方薬?相変わらずフワリは物知りだな。俺には全然わからないが、それはおいしいのか?」

 ちゃんと料理に使えばおいしい。

 漢方薬においしさを求めてはいけない。

「でもまぁ、片栗粉の代わりってことは」

 よだれが出てる……。これは……。

「持っていけない分は、ここにいる間に使えばいいよな?」

 ……はい。目が竜田揚げになってますね。

 でも、葛粉作りって、すんごぉーく大変だって言うよね。

 なんせ、根を掘り起こすのが重労働。重機を入れられない山の中で手掘りしないといけなくて……。

「根を掘るんだな、ちょっと待ってろ!」

 びゅーんとグリーンモンスターである葛のところまで行き、伸びている蔦を手に引きちぎってぽいぽい捨てている。

 そのまま引っ張られ根っこまで抜けるほど葛の根はやわじゃないよ……。カタクリみたいに幼女でも引っこ抜けるようなものじゃないよ……。

 と、思って見ていたら、蔦を引っこ抜き根元の方があらわになったら、ルツェルンハンマーを取り出し土をガツガツ掘り始めた。

「あ、そういえば、穴掘り名人だったな、ヴァルさんって……」

 ヴァルさんが奇声を上げた。

「うおおおお、これが、グリーンモンスター芋!モンスターって言うだけのことはあるなぁ!」

 芋?

 ヴァルさんが、私よりも太くて長い大きな長芋のようなものを持ち上げて、私に手を振ってる。

 す、すごっ!年代物の葛の根がものすごいとは聞いてたことあったけど……そりゃ手に負えないし、普通の人が手掘りするならめちゃくちゃ重労働だわ……。

 正直、私もなめてた。

「でかいなぁ、これなら、いっぱい白い粉ができるんじゃないか?」

 私よりも大きな葛根。んー、そうだね、10歳くらいの子供サイズはあるかな?を手にヴァルさんがにこにこして戻ってきた。

 正直、ヴァルさんもなめてるね。

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