第46話

「うははははははっ」

 笑い声が聞こえてきた。

 それからすぐに抱き上げられる。

「フワリもまだまだ子供だなぁ。追いかけっこしてたのか?転んだりしてないか?」

 追いかけっこ?

「どんぐりも拾って遊んでたのか」

 私が保存食のために集めていたどんぐりを見下ろしてヴァルさんが笑顔を見せる。

 遊んでない!

「追いかけっこじゃない。あれがいるの!」

 びしっと、コロコロと転がっていく回転草を指さした。

 意外と早く転がり、なかなか手に入らない。追いかけていたけれど、追いかけっこをして遊んでいたわけじゃない。

「ん?何に使うんだ?」

 ヴァルさんの足に引っかかって止まった回転草をひょいっと持ち上げた。

 むぅー。

 あんなに必死になって私には手に入らなかった回転草をこんなにあっさり……。

 でもいいや。

「燃やすの」

「ん?ああ、薪代わりに移動中使うってことか?確かにこれなら薪を持って行かなくても手に入るな」

「そこにあるの、燃やして」

 すでに3つほどの回転草は確保してある。

「おお、フワリ頑張ったんだなぁ」

 ニコニコ笑顔で頭を撫でるヴァルさん。

「だが、無理はするな。転んでけがをしたら大変だ。必要なら俺がいくらでも」

 ペチンとヴァルさんのほっぺたを叩く。

「早く燃やして。まだ保存食作るのにやることはたくさんあるのっ!」

「そうか?あとは切って塩水につけて干しておけば」

 ヴァルさんが私が皮をむいたどんぐりをバケツから出そうとした。

「ダメ、それはダメ。ヴァルさんは、水汲み用バケツに、塩水につけるようバケツ、それから水浴び用たらい、あと作ったもの入れる容器に、うんと、今から使う鍋といっぱい作ってもらう物があるの!忙しいの!だから、まず、燃やしてっ!」

 ヴァルさんは、分かった分かったと私を下ろすと、石を積んで作った簡易かまどに回転草を放り込んで火をつけた。

「うわー、よく燃える」

「あっという間に燃え切手灰になっちまうなぁ。薪代わりってわけにはいかないか」

 ヴァルさんががっかりした顔を見せる。

「よし、よし、灰になった。あ、ヴァルさんバケツ新しく作ったら、水を汲んできて!」

「お、おう……待ってな」

 ヴァルさんが走り回っている間に、ヴァルさんが持ってきた肉の塊を見る。

 干し肉……塩っ辛い干し肉だけじゃ絶対また私「飽きた」とか思うよね。

 仕方がない、とりあえずは最低限の保存食確保。工夫はそのあと。

「水、汲んできたぞ~」

 早っ。バケツを作るところからだよね?

バケツの水をどんぐりの入ったバケツに投入。それから、さっき回転草を燃やしてできた灰を入れる。

「うわっ、何してるんだフワリっ!」

「これ、ロシアアザミ。繁殖力は強いし風に吹かれて転がってきて邪魔だし厄介者なんだけど、焼いた灰はソーダ灰の原料になるんだよ。つまりそういうこと」

 ヴァルさんが、なるほどと頷いた。

「いや、分からん、ロシアアザミという名前の植物までは分かったが、そっから先がわからないぞフワリ。ソーダ灰ってなんだ?食べられもしないどんぐりを水にしずめて灰を入れる意味が全く分からない」

 にまっと笑う。

「えっと、ヴァルさんは石鍋作って。あと干し肉は薄切りにして塩水に漬け込むの?薄切りには私がやるね。分業分業。頑張ろうね」

 ニコニコと笑えば、ヴァルさんは、分かったと張り切って石鍋作りを始めた。

 ……危ない。前世の知識全開で語ってしまった。

 ソーダ灰っていうのは、よく料理なんかであく抜きに使う重曹よりもアルカリ性が強くて、まぁ最強のあく抜きアイテムとでも覚えておけばいいかと。

 もともと灰ってあく抜きに使うけど、ロシアアザミを焼いた灰はすごいらしいのだ。

 しばらく灰汁……灰の汁につけておいて、それから煮て、灰汁抜いて、乾かして、砕いて粉にしてどんぐり粉を作る。

 ヴァルさんに借りた短剣で肉を薄切りにしていく。

「やっぱり、短剣は使いにくいな……」

 包丁が欲しい。

「フワリ、石鍋ができたぞ」

 早っ。

 「あ、マタタビの実、黄色いのとってきて。干した果物は栄養があるから他にも食べられそうな果物を見つけたらとってきて」

「おう、行ってくる」

 ヴァルさんが森に採取に出かけた。

 バケツに塩水を作り切った肉を漬け込む。

 あく抜きも漬け込みも、あとは待つのみ。

 どんぐりはまだ半分皮むきが待っている……。うーん。今のが成功してから考えよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る