第17話 *

「先に私たちを殺そうとしたのはあんたでしょ、能無し!」

 異母妹が、また手を上にあげた。

「殺そうとなんてしてないっ!」

 逃げないとと、思っても、二人の男の子が私を両側から手を掴んで離さない。

「あはは、だから、証拠は残ってる」

 殺そうとした証拠?

 私、あんな扱いをされていたけれど別に殺してやるなんて思ったことないのに。

「紫の花」

 え?

「エルフなら誰でも知ってるわ。猛毒だから近づいてはいけないって」

 紫の、花?猛毒ってトリカブトよね?

「あんたがいた小屋の裏に、紫の花が散らばってた。私たちを毒殺でもしようと思ったんでしょう」

 何を言っているの?トリカブトなんて……。

「あ……」

 カタクリの花。

「あーら、思い出したようね?」

「違うっ、あれは毒じゃなくてっ!」

 紫の花としかエルフの村では言われていない。形なんて誰も教えられてない。

 だから、カタクリの花をトリカブトだと勘違いされても仕方がない。

「私が食べるために……」

 ヒュンッと風を切る音がしたかと思うと、さっきと反対側の肩が切れた。

「自殺でもしようとしたとでも?エルフの村を汚すつもりだった?」

 違う、違うと、首を横に振る。

「そう言い訳するようにと、ドワーフにでも言われたか?」

 右手を抑えている男の言葉にさらに首を横に振る。

「自殺しようとしたなんて言い訳が通用するわけないだろう!」

 左手を抑える男の子が腕をひねった。

 痛いっ。

「あっちの木に、たくさん吊るしてあったのを見たぞ!あんなに大量の毒、自殺用なんて誰が信じるか!」

 カタクリを干してあったんだった!

 花も茎も葉も食べられるから、片栗粉を作るためにとったのを干し野菜のように保存してちょっとずつ食べようと思って。

「本当に、あれは毒じゃな……」

「うるさいっ短耳無能、黙れ!」

 いつの間にか目の前にまで迫っていた異母妹が、私の頬を平手で打った。

「本当に醜くて、見るのも嫌!それなのに、私と半分血がつながっているなんて、あんたを見るたびに吐き気がするのよっ!」

 耳を掴まれて思いきり引っ張られる。

 痛っ。

「も、もう、村には……戻らないから……」

「戻らないんじゃないの、戻れないのよっ!村人を毒殺しようとしたんだものっ!」

 異母妹の言葉に男の子がいししと声を上げる。

「しかも、土をわざわざ運んでくるなんてな、エルフでは考えられない」

「お前さ、本当はエルフとドワーフの混血なんじゃねぇのか?お前のかぁちゃん浮気したんだろ、ドワーフと!」

「だから耳が短いし、同じ年なのにそんなに身長が低いのね。母親が浮気してたなんてお父様がかわいそう」

 違う。

 母さんはそんな人じゃない……。

「……浮気してたのは父親の方だし、結婚していると知りながら寝取ったのは、あなたの母親でしょ、じゃなきゃ数か月違うだけの姉妹が生まれるわけ」

 バシンッ。

「黙れ!」

 頬をぶたれる。

「私には姉妹……異母姉はいないわ。無能は、ここで死ぬんだから」

 え?

「首を切り落とすなんて簡単すぎるわね。あんたたち、遊んでいいわよ」

 ニタリと笑って異母妹は男たちに告げる。

「エ、エルフに手をかけると、精霊の加護がなくなるわよ……」

 震える声でつげると、異母妹はケタケタと笑った。

「もうそんな脅しには載らないわ。私は加護を失ったりしない。だって、あの後も魔法が使えるんだもの」

「あはは、ドワーフみたいに土まみれなエルフを殺せばむしろ精霊は喜ぶんじゃないか?」

「そうだな。大量に毒殺しようとした犯人を殺せば加護が強くなるかもしれない!」

 そんな……。

「たす……け……て」

 3人には殺意しかない。それが肌身に感じる。

 前世の記憶が戻れば、異母妹もそれより少し年上の男の子たちも、子供だ。小学生とか中学生とかの年齢だというのに……。

 ううん、子供の方が残虐だったりする。善悪の区別が緩かったりもする。

 紛争地では子供兵として銃を握る。子供が人を殺さないというのは「教育」あればこそだ。

 ここでは精霊の加護こそが優先すべきこと。大人に褒められるためには敵を攻撃すればいい。

 エルフの村の敵……それが、私だ。

 だから、この3人の殺意は本物だ。

「誰も助けになんて来ないよ!」

「魔物が住む森から帰ってこなくても、誰も心配して探そうとしなかったしな!」

 異母妹がクスリと笑った。

 勝ち誇ったような目をして私を見下ろす。

「もちろん、お父様もね」

 知ってた。とっくに。

 父が私のことなんてどうでもいいと思っていることなんて。

「実の親にも心配されないなんて。本当に、かわいそうね」

 だから、知ってた。

 知ってたのに、村を出ても遠くに行かなかったのは、心のどこかでまだ、村とつながっていたいと。

 いつか私も父に認めてもらえるのかもしれないなんて、馬鹿なことを思っていた。

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