第5話

 カタクリの茎と花と葉と球根の搾りかすを持って村の外れの掘立小屋に戻る。

「料理の知識はあるけど、何かを作れる気がしない」

 掘立小屋の中には、体を横たえて寝るための板が1枚。

 水を飲むための木の器が1つ。麻布で作られた粗末な服。

 部屋の中にあるのはこれだけ。

 これはひどいとは思うけど、閉鎖的な村での自給自足生活ではそれほど物もない。

 綿は栽培されていないし、蚕も飼っていないから綿も絹もないから麻布と動物の皮や毛皮だけ。他のエルフも麻布の服だ。

 性格は悪いし、着ているものは粗末だし、エルフのイメージのこれじゃない感……と、前世記憶を思い出すと苦笑いするしかない。絹とか着てそうじゃない?

 いやいや、見た目は違うけど中身はそうでもないか。ハーフエルフやダークエルフを差別したり結構性格悪かったっけ。

「ないものばかリだけど、あるものはある」

 薪はパンをもらうために一生懸命集めていたから潤沢にある。

 ……暗くなってから持って行けと言われたけど、パンも貰えないなら持っていく必要ないよね。

 掘立小屋の外に出て、石を拾い集める。

 かまどのように石をくみ上げ、なるべく平べったくて大きな石を組んだ石の上に置くいた。

「キャンプ動画で、鉄板より石で焼いた肉の方がおいしいって見たから、日本では贅沢な部類なんだろうなぁ……」

 エルフの村には鉄板がないだけだけど。

 薪を組んで、枯れ葉と、麻をほぐしたものを置き、火打石で火をつける。

 なかなかうまく火がつかなかったけれど、15分ほどで何とか火が起こせた。

 あとは石が温まるまでしばらく待ち、その間にカタクリの花や葉をちぎって食べやすい大きさにする。

「枝を探そう」

 森に入って、使いやすそうな枝を探す。

 村の外れ、他の家とはずっと離れた場所に掘立小屋はある。10歩歩けばもう森だ。

 魔物や獣が村に現れたら一番に襲われるような場所だ。

 だけど、精霊が村を護ってくれているから、襲われることはない。ただ、近くに魔物や獣が現れて怖い思いはするけれど。

「あった」

 森に入ってすぐに目的の、まっすぐな枝が見つかりすぐに戻る。

「箸」

 記憶はあるけれどうまく使えるかな?

「うっ、つかめない、こうかな?あ、こうだ……お、おお」

 ちぎったカタクリの茎や花弁を箸でつかんでは石の上に載せていくうちに、上手く使えるようになってきた。

 載せてから、細かくした岩塩を少し振りかけて焼いていく。

  鱗茎の搾りかすは、丸めてハンバーグのような形にして鉄板代わりの石の上に乗せる。

 じゅわーとおいしそうな音がする。

 塩炒めはもうできたみたい。大きな葉っぱをお皿代わりにして載せる。

「いただきます」

 自然とその言葉が出たのは驚いた。

 どうやら前世の記憶を思い出して知識が頭の中に流れてきた時よりも、前世の私と今の私が融合してきている感じがする。

「あ。ほんのりと甘みがあって、癖もなくておいしい」

 カタクリ、食べ過ぎるとお腹緩くなるって、つまりは食べすぎることができるくらい食べやすいってことなんだね……。油もなしで塩だけだから、漬物のような感じでもある。

 搾りかすハンバーグの方も焼けたみたいだ。

「ほふほふ、あつ、ほふほふ」

 ホクホクしておいしい。百合根に似てる?芋っぽい?

 味は癖がなくてほんのり甘い。

 ……硬いパンしか食べてなかったから、暖かくて柔らかい、それだけでごちそうだ。

 ジワリと涙がにじむ。

 大丈夫。これからもっとおいしいものいっぱい食べよう。

 前世日本人の記憶があるんだよ。

 エルフが食べない土の下の食べ物だってガンガン食べてやる。

 どうせ、嫌われ者の耳の短いエルフだ。虐待されてるんだ。

 これ以上嫌われる心配なんてする必要がない。

 お腹がいっぱいになった。火を消して、布団なんかない掘立小屋の板の上に寝転がる。

 明日は何が見つかるかなぁ。

 毎日生きていくために薪拾いをしていた昨日までとは違う。

 新しく食べられる物が見つかるかもしれない。そう考えるだけで、楽しくなった。

 

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