第2話
どうしよう。
まずは森の奥へと進んでいく。拾った薪を抱えながらうろうろするのでは体力を消耗してしまう。
6歳の体では、あまりたくさんの薪を抱えて歩き続けられない。
奥まで行ってから、村に向かって歩きながら拾い集める方が効率的なのだ。
「昨日は西へ行ったけれど、今日はどこへ行けばたくさん拾える?」
目を閉じて耳を澄ませば、まるで誰かに耳に息を吹きかけられたような小さな風を感じる。
右後ろ当たりから風が吹いてきた。
「そう、今日は南西方向に行くとたくさん薪が拾えるのね?」
これが私の精霊の加護なんだと思う。
耳がもっと長ければ、大きな加護がもらえたのかな。
異母妹のように、風魔法が使えるようになったのかな……。
なんてちょっと落ち込んだりもした。でも、そのたびに頬を風が撫でていった。
まるで私を慰めるような風に、母が亡くなってからは励まされ続けてきた。
精霊の声は聞こえないけれど「元気を出して」「私がいるわ」「いつも一緒よ」と言われているようで。
「あのね、私はあなたのことが大好きよ。だって、薪が拾える方向じゃなくて、本当は危険がない場所を教えてくれてるんだよね?」
戦う力がないひ弱な私が、魔物が出る森の奥へと進んでも無事に帰ってこられるのは精霊の加護があるからだよね。
こちらの声が伝わるかどうか分からないけれど、感謝は口に出すようにしている。
「いつもありがとう」
ふいっと、鼻に息を吹きかけられた。下からだ。
鼻の中に「メントール」のようなすっきりした香りが抜けていく。
下を向くと、足元にヨモギが生えていた。
「ヨモギだ!ありがとう、教えてくれたのね!」
ヨモギの葉をちぎって、手で揉みしだく。
ヨモギの匂いが強くなる。
「ああ、よもぎ団子が食べたいなぁ~」
え?私、何を言っているの?
しんなりしたヨモギの葉を、異母妹たちに斬られた耳の傷に当てる。
ヨモギはちょっとした怪我の薬になるのだ。
森とともに生きるエルフの知恵。ヨモギは薬草で食べ物ではない。
だけど、耳から漂ってくるヨモギの匂いに、お腹がくぅっと小さな反応をする。
「餡子がたっぷり入ったよもぎ餅の匂いだ」
本当に、私は何を言っているの?
ドスンと突然しりもちをついた。
頭に大量の情報が流れてきた。
「前世の……記憶……だ……私、転生……エルフに……」
小さくなってしまった両手を見る。
日本人として寿命を全うした記憶が、今の私に告げている。
よく頑張ったね……と。
あんな意地悪な人たちはエルフとして認めないと。見た目が綺麗でも心が醜い。
そんなのはエルフじゃない。耳が長けりゃ立派なエルフなんて冗談じゃない。
くふふ、ふふ。
「耳が長くないなら村を出て人間に紛れて生きていけばいい」
都合がいい。あんな閉鎖的な村で一生……1000年も過ごすなんて退屈で死んでしまう。
100年にも満たない前世の記憶がそう伝えてくる。
確かに、前世の日本という世界は娯楽物であふれていた。
森の中の小さな村で同じような毎日を過ごすのはなんと退屈なんだろうか。
退屈だから……。
「そっか、退屈しのぎなんだ……」
小さな手で、耳に触れる。
私があんな待遇を受けているのは、本当は耳のせいなんかじゃなくて……。
くぅーと、お腹が鳴る。
ポケットに入れた固いパンの残りを取り出して食べる。
お腹が落ち着いたら、立ち上がる。
「よし!食べる物を探そう!」
薪を拾って固いパンをもらう生活はおしまい。
「こんなまずいパンのために1日中うろつくより、食べ物を探して1日中うろついた方が絶対いい……と、思う」
大丈夫。前世の知識が「これだけ豊かな森なら食べられる物たくさんあるはず」と教えてくれる。
木漏れ日が足元を照らす。
見上げれば、木の実をつけた木が目に入る。
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