「クロノブリッジ」の壮大なSFアクション、「蜂つきわたあめ」の切ない恋愛短編——それらとはまた違う顔のほしわた氏がここにいる。世界を旅する猫・もちゃぷきんの一人称で描かれる26話の読み切り連作で、ほしわた氏の全作品の中で最も「疲れた日に開きたい」一冊だ。
第1話「ねがえる。」は家族の夕方を猫の目線で切り取る。バイトを増やすJKと問い詰めるおとうの空気、テレビのCMが偶然空気をほぐす瞬間、弟の一言でふっとほどける笑い——これだけで一話が完結する。事件も解決も何もない。ただ、家族が「今日も生きている」という事実だけがある。
もちゃぷきんの語りの特徴は「知らないにゃ」という無知の誠実さだ。人間の言葉の意味を理解しない分、表情や声の温度だけを拾う。だから読者には「これは家族の小さな和解だ」とわかるのに、もちゃぷきんには「きみが笑ったからいいにゃ」としか届かない——この認識のズレが、かえってその場景の温かさを増幅する。
各話タイトルが「もちゃぷきん、〇〇をする。」という動詞で終わる構造も心地よく、「死体をあたためる。」「遺書をひらく。」という不穏なタイトルの話でも、もちゃぷきんのまなざしがあれば怖くない。
完結済み26話・4万3千字。好きな話から読めるので、今夜ちょっとだけ、と思ったら気づいたら全部読んでいる類の作品だ。