消えゆく光 ―春に散る約束―
如月れい
第1話 月の下の出会い ―静かな春、公園での再会―
「今日も月は綺麗だな…」
太陽のように派手ではないが、夜を照らしてくれる、大人しめの月が大好きだ。
「月が見える夜は、やはり胸が熱くなるよ…。」
以前体験した、幻かと思えるような出来事。いや、幻と言っても過言ではない。
昨年の4月、桜も咲き始め、山に行けば鶯が美しい声で鳴いている時期に、公園のベンチで春風を感じながらひなたぼっこをしていた。
右肩を軽く叩かれた後、白鳥のように白く、そよ風でも、飛ばされそうなほど細い腕が、首を優しく抱き込んできた。
「あ、澪さん。珍しいですね。公園に来るなんて」
「ちょうど通りかかったら、面白そうな人を見つけたからね」
「自分もその面白い人知りたいんで、教えてください」
「だめ〜」
意地悪そうに、揶揄うように、優しく微笑みながら、隣に座ってきた。
「澪さんどこか行くんじゃないんですか?」
「ん?もう行ってきたよ」
「早いですね。まだ11時ですよ?」
「9時には目的地についてたからね。2時間ぐらいで終えられたから今から帰宅ってところだよ」
いつもの笑顔ではあったが、どこがぎこちないような気がした。
「何かありました?」
つい聞いてしまった。こういう時、聞かないのがベストだと思っていたのに、聞きたいという誘惑に負けてしまった。
「君はずるいね…。」
言葉と表情が乖離しすぎているほど、澪さんの表情は儚げにも優しく暖かかった。
「君こそ何かあった?こんなところでダラダラするほど、外が好きじゃないと思ってたんだけど?」
「澪さんこそずるいですよ…。ありました…。病気らしいです…」
言葉に詰まった。どう言えば、気を遣わせないで済むか。それだけで頭がいっぱいになった。
「そっか…。大丈夫だよ!緊張することはないさ。君はまだまだ歩み続けられるよ。私が保証してあげる!」
励まされてしまった。少し違和感があったが、気にしないようにした。
「私はもう、長くないから羨ましいよ…」
小さく、でも聞かせるように呟いた。
「何か言いました?」
「いや、独り言。強いていうなら、君の心配だね」
「澪さん。何があったか言ってください」
言われた瞬間、体温が下がるのがわかった。
「仮面…。取れてます」
彼が何を言っているのか、理解できなかった。
「な、何を言ってるのかな?仮面?よくわからないね」
「ですね…。澪さんって接する時、絶対隠しますよね、本心を」
「そんなこと…。」
「なんとなく予想はつきました。が、胸にしまっておきます。普通に接していたいので!」
笑顔でこちらを見てきた彼の目には、笑っているのに、泣いている私が写っていた。
「仮面…か。そうだね。仮面だったね。ごめんね」
笑顔を保っていることができず、両手で顔を隠して膝に倒れかかった。
「澪さん、大丈夫じゃないけど、大丈夫です。まだまだ、楽しみましょ?」
彼の言葉は本心から言っている。そう感じさせてくれるほど、彼の目は、真剣に、でも優しさに満ち溢れていた。
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