第30話 初依頼なのに事件だらけ ― スライムは友達ですか?

初依頼なのに家庭問題 ― ピィの里帰り事件**


村のギルド掲示板の前で、

ジロウが木札を掲げて跳ねていた。


「リクさん! 初依頼ゲットっすよ!

  “スライムの異常行動調査”っす!!」


「討伐じゃなくて調査か……

 まあ優しい仕事で良かったな。」


『依頼難度:E。危険性:低。成功確率:94%。』


「その“安全”って言葉、今まで一度も

 当たったことないんだけどな。」


ジロウが胸を張って宣言した。


「でも今日の俺たちには――切り札がいるっす!」


ぷるぷる。


腕の中で震えるピィが、得意げに膨れた。


『……ピィ!』


ミナのホログラムに飛びついて、また落ちる。


『だから触れないと言っているのですが……』


リクが笑った。


「まあピィはこの世界のスライム語が分かるからな。

 頼りにしてるぞ。」


『……マカセテ!』


小さな体がぷるぷると揺れる。



草原に入った瞬間、ピィが震えた。


『……コワイ……アッチ……ヘン……』


「どうした? 仲間の気配か?」


『波形に“親族リンク”。

 近縁種が複数……いえ、かなりの数存在します。』


「かなりって言うなよ怖いだろ。」


ジロウはピィを抱きしめた。


「安心しろピィ! オレたちがいるからな!」


ピィは不安そうに震えながら言った。


『……オカアサン……サガシテ……』


リクとジロウ「…………」


『ミナ、お前……』


『異議あり。私は出産機能を備えていません。』


「そういう問題じゃねぇ!」



茂みの奥――光るゼリーが点々と続く。


ピィが近づき、ぷるん、と跳ねた。


『……ナカマ……イル……』


その奥から、弱々しい小さなスライムが出てきた。


『……タスケテ……モンスター……クル……』


ジロウが絶叫した。


「出た! 完全にビビってるスライムすよ!? 

 保護対象じゃないすか!!」


リクの眉がひくつく。


「依頼内容に“脅かすスライム”って書いてあったけど……脅かされてんのこいつらじゃねぇか。」


ミナが静かに補足した。


『脅威反応……後方から接近中。』


「ほら来た……!」


振り返ると、青黒い巨大スライムがずるり、

と姿を現した。


ジロウが叫ぶ。


「デカすぎだろ!!」


ミナ『悪性化個体です。腐敗波形を検出。戦闘推奨。』


スライム(小)が叫ぶ。


『……オカアサン、タスケテ……!!』


ミナの光が一瞬揺れた。


『だから私は母では……ありません……が。』


光が強まり、構造解析が走る。


『――リク。使用しますか? Spectral Synthesis。』


リクはスパナを構えた。


「当たり前だろ。

 うちの“家族”に手出す奴は許さねぇ。」


ジロウが拳を握る。


「リクさん! 今日だけは――」


「勇者だな?」


「はいっす!!」


ミナが光の紋様を展開する。


『Spectral Synthesis――防御壁形成。

 ジロウ、右側の誘導を。

 リク、前方から牽制。

 ピィは――保護対象です。』


ピィ『……タノム……!』


ジロウ「保護になったあああ!」


巨大スライムが吠える。


リクが叫ぶ。


「よし行くぞ!!」


ジロウ「了解!!」


ピィ『……ガンバル!』


ミナ『三……二……一――作戦開始。』


三人と一匹は突撃した。


――異世界初の、

“観測者チーム vs スライム母子問題”が

華々しく開幕した。



スライムは敵じゃない。だいたい家族だ。

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