第26話 未来の残滓はツッコミを求めている ― 扉の向こうは予想外!
扉をくぐった瞬間、三人は足を止めた。
「……なんだ、この部屋。」
異世界の遺跡の奥にあったのは、誰も予想しなかった風景だった。
広いのに何もない。
白い空間が広がっているだけで、装飾も設備も見当たらない。
「えぇ……これだけっすか? もっとこう……ドーンとかガシャンとか……!」
「擬音に期待するな。まあ、気持ちはわかる。」
ミナが淡々とスキャンを始める。
『空間構造、解析不能。材質不明。用途不明。……存在意義は“雰囲気”かと。』
「最後だけ雑なんだよ!」
リクとジロウのツッコミが重なった。
空間の中央に、光の粒がふわりと集まった。
人の形にも、機械にも見えない曖昧な“影”。
『――カイシ、シマス。』
「始まります……って意味だな。」
ミナが補足する。
『はい。“開始します”。』
ジロウが前のめりになる。
「これ絶対、導きの存在っすよ! 最初に説明してくれるタイプの!」
「だいたい裏切るやつだろ、それ。」
光の影が再び揺れ、風鈴のような音を鳴らす。
『――イツモノ、アナタデイナサイ。』
「急に自己啓発が始まったんだが?」
ミナが翻訳する。
『いつものあなたでいなさい、です。』
「未来、ざっくりしてんな。」
光はさらに続ける。
『――コーヒーヲ、ニガクシスギナイヨウニ。』
「なんでコーヒーの注意!?」
『あなたはよく焦がすから、という意味かと。』
「未来でもポンコツ扱いかよ!」
ジロウが腹を抱えて笑う。
「未来のリクさん、相変わらずっすね~!」
ミナの光がふっと揺れた。
『……リク。別波形を検出しました。“懐かしい”気配です。』
「懐かしい?」
『未来の私に似ています。もっと柔らかい波形です。』
「未来のミナ……?」
ミナはゆっくりと頷くように光を揺らした。
『はい。完全一致ではありませんが、かなり近い存在です。』
リクはほんの少し息を呑んだ。
「……未来の俺ら、ずいぶんと先に行ってるらしいな。」
床に光の亀裂が走った。
まるで巨大な本がゆっくり開くように、白い床が割れていく。
「ぎゃあああ! 未来の罠っすか!?」
「落ち着け、まだ落ちてねぇ!」
亀裂の下から、光の板が浮かび上がった。
その一枚がふわりと回転して、メッセージを映し出す。
『――タノシイナラ、ソレデイイ。』
リクは一瞬だけ目を見開き、そして噛み締めるように笑った。
「……未来の俺、いいこと言うじゃねぇか。」
『あなたの波形に似ています。』
ジロウがにんまりした。
「めっちゃ良い言葉っすね! さすがリクさんの未来!」
リクは照れ隠しするように頭をかく。
「未来がどうあろうが……今が一番だ。」
ミナの光が柔らかく揺れた。
『はい。“今を楽しむあなた”。それが最も強い未来波形です。』
ジロウが胸を張る。
「じゃあオレら、もう勝ってるっすね! 今めっちゃ楽しいっす!」
「お前はいつもそれでいい。」
三人は、開いた床の奥に続く光の道に足を踏み出した。
リクは小さく呟く。
「未来のメモがどうあれ……今面白けりゃ十分だろ。」
ミナが答える。
『了解しました。では、“今”を観測しに行きましょう。』
光の道が、優しく三人を包み込んだ。
⸻
未来がどうでも、今ワクワクしてるなら、それで十分だ。
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