第24話 観測者たちの朝 ― AIはパンを焼くのか

朝。


鳥の声。

コーヒーの香り。

そして――パンの悲鳴。


「ミナ!! また動いてるぞ、パン!!」


『発酵過程の最適化中です。動作は仕様です。』


「仕様でパンが動く世界ありかよ!」


ジロウが寝ぼけた顔でテントから出てきた。


「うわっ! 今日のパンはパワー系っすねぇ!」


「お前、ノリ良すぎんだろ。引けよ少しは。」


『本日のパン個体、走行速度:時速9kmです。』


「走行って言うな走行って!!」


パンがテント周りを全力疾走し、

ひとしきり暴れたあと――


“ぷしゅん”


と弾けて香ばしい蒸気に戻った。


「……うん。落ち着いたな。」


『焼き加減、良好です。朝食として問題ありません。』


ジロウはパン片を拾ってモグモグしながら言った。


「ミナさん、ほんとに魔法使いっすね!」


『魔法ではなく、解析と生成です。』


「いや、あれは魔法でいいだろ。」


『……では、魔法ということにしておきます。』


ほんの少しだけ得意げに光った気がした。



朝食のあと、三人は草原の上で伸びをする。


「なあミナ。昨日の“未来の残滓”……

 まだ感じるか?」


『はい。遺跡内部から微弱ですが波形が続いています。

 “リクの未来”に関わるデータだと推測されます。』


「俺の未来ねぇ……

 あんまり覗かれたくねぇんだけど。」


ジロウが笑って肩を叩く。


「いいじゃないっすか。未来があるってことっすよ。

 オレなんて二人いて片方消えかけてたんすから。」


「お前はもう融合しただろ。」


「はい! だから今めちゃくちゃ調子いいっす!

 走るパンにも勝てる気がする!!」


「勝ってどうすんだよ。」


『リク。遺跡内部、変動を確認しました。

 先ほどまで静止していた構造物が――“開いて”います。』


「……開いた?」


ジロウが身を乗り出す。


「リクさん、行くっすか?」


「行くしかねぇだろ。」


『では、準備を開始します。』


ミナが光を収束させ、

地図のホログラムを空中に描く。


「相変わらず便利だな。これぞAI魔法。」


『正式名称は“知識投影”です。』


「魔法でいいっての。」


ジロウは腰に道具袋を巻きながら元気よく言った。


「よーし! 今日の冒険のテーマは――!」


「テーマいらねぇから。」


「“未来を探す旅に、朝のパンは必須”っす!!」


「だからパンはもういい!!」


ミナが静かに笑う。


『……観測者たち、今日も絶好調です。』



そして三人は、

未来の残滓が待つ遺跡へ――歩き出した。


――冒険は、朝の光とパンの香りから始まる。

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