闇堕ち聖女と転生推し活魔王は、今日も世界を滅ぼせない
はな
第一章 闇堕ち聖女、魔王に推される
1.聖女フェリス、フェリス担と出会う
「うわぁ本物の大聖女フェリス様が目の前に! 泣いてるところもやばい可愛い推しの涙は国宝級。けど推しを泣かすなんて万死に値するな。フェリス様は僕が……あれ? フェリス様闇堕ちしてる⁉︎ シナリオと違うじゃん! けど尊いですフェリス様!」
「え、待ってなに、あなたは」
薄暗い森の中で、自分の不運にぐすぐすと泣いていたフェリス。その目の前に現れたのは、十歳ほどの少年だった。
その少年は今、フェリスをきらっきらの瞳で見上げていた。
「青空を映したかのごとく青みがかった銀髪は世界一輝いていて、澄み渡る湖よりも深い青い瞳はあふれ出る慈悲そのもの! 圧倒的癒し! 極め付けにすらっとした高身長と輝く美貌! 世界の至宝、最高傑作!」
興奮し早口でそうまくし立てた少年の髪が肩からすべり落ちた。珍しい漆黒の髪には品のいいウェーブがかかり、ゆるく背に流れている。真っ白な肌に、宝石のようなきらきら輝く真紅の瞳。
貴族の子かなと思うほど品の良い服は、仕立てたものなのかピッタリサイズ。そして、一目でわかる生地の良さ。
だがフェリスの目を引いたのはそこではない。
「それなのに全く威張らず気さくで庶民感覚にあふれててしかも無自覚ドジっ子……推せる……」
「待って馬鹿にしてる? というか————」
「今僕、心の中でペンラふり回していますフェリス様!」
「ペンラ? ってなに……じゃなくて!」
少年の漆黒の髪、正しくはその頭部へとフェリスは視線を動かした。
少年の側頭部、そこからは人にはあってはならないものが生えていたのだ。にょきにょきとそこから伸びているのは、二本の角。形状は山羊が最も近いだろうか。山羊の角よりもぐねぐねしているが。
「角がある……」
「僕、魔王だから!」
ずいっとフェリスに歩み寄った自称魔王が、はっしとフェリスの両手をつかんだ。
「ひっ」
「僕はマオ! フェリス様のこと、前世から推してる‼︎」
「……は?」
魔王。そこは信じよう角が生えている。角が生えているのはこの世界で魔王だけだ。
だけど、前世からとは? 推しているとはなんだろう?
そもそも、魔王は世界を恐怖に陥れる悪いやつだ。フェリスは大聖女として、勇者一行と魔王討伐に参加したこともある。
倒すには至らず封印するに留まったが、あの時戦った魔王は断じて子供ではなかった。
「マオ……?」
「そう!」
「魔王だけに?」
「ちがっ! 僕は本当は桜井
慌てて弁解し手を離してわたわたするマオから、さっと離れる。言っていることが支離滅裂、意味不明。
この魔王、変な病気かもしれない。
「僕は前世で日本って国で生きてて」
「聞いたことない」
「でしょうね! ここ多分僕の大好きなRPG【レクイエム・オブ・ダークネス】の世界なんです」
「あーるぴーじー?」
「ロールプレイングゲーム」
「ゲーム」
うわぁ、とフェリスは思わず口を押さえた。
この世界をゲームとか言い出した魔王に、若干の憐れみの目を向けてしまう。
うーん、とあごに手を当て思考を回す。
「そういうお年頃なのかしら……困ったな。というか本当に魔王なのかしら。魔王は生まれ変わりがあるってこと……? 正直それどころじゃないんだけどな……」
「あのフェリス様、心の声全部声に出てます」
「前世ってなに? 魔王ってあの魔王よね? わたしの
魔王と戦った日のことを思い返す。
爽やかイケメンの勇者リオンと、粗野だけどムードメーカーの戦士ガルド、フェリスを姉と慕ってくれていた魔法使いミリア。
聖クリスティア王国の精鋭として魔王討伐に行く三人に、聖女として同行を申し出た日が懐かしい。あの時は、こんなことになるなんて思いもしなかったのに。
「わー、圧倒的聖女感。さすが聖女中の聖女フェリス様! って、あれ? 僕、封印されてました?」
「わたしの記憶が確かなら」
「あー、だからかなあ。僕、専門学校に行く途中に交通事故で死んじゃったんですけど」
「交通、事故……えっと、馬車に跳ねられたの?」
「あー、まあそんなとこです。死んでから数日は向こうにいたんです。でも急に意識が引っ張られて、はっと目覚めたらもう魔王になってて。あの時に封印から解けたんですかね?」
「ちょっとわからないわね」
可愛らしく首を傾げた少年魔王に、かたい声で返す。
封印が解けたのもそうだが、魔王が交通事故で死んだとかわけがわからない。今生きているのに死んだと思っているとか、やっぱり変な病気感がある。
それに子供だ。魔王と対峙したことがある身として言うなら、今目の前にいるマオは全然魔王っぽくない。あの邪悪さはどこへ行ったのか。
「頭でも打っておかしくなったのかしら」
「そーゆーのは、心の中で言ってくださいフェリス様……もっと蔑んだ目で言って欲しくなる欲求が抑えられなくなるので……はぁ、ご褒美……」
うっとりしたようにほおを染めながらフェリスを見上げて来たマオに、背筋が寒くなる。
この魔王、こわい。意味がわからない。
「頭、大丈夫そ?」
「致命傷で済んでるので大丈夫です! もっとなじってもらっても」
「マオくんもしかして変態……?」
「ありがとうございますフェリス様! 尊死……」
ぱたん、とその場に倒れたマオは、幸せそうにほほ笑んで瞳を閉じている。
逃げるなら今だ。
そーっとその場を離れようとしたものの、それは突然起き上がり立ち塞がったマオに阻まれた。
「あー、待って待ってフェリス様! 僕はフェリス様担なんで! 困っているなら力になります!」
「え⁉︎ いや仮にも魔王と手を組むわけには」
「フェリス様、泣いてたでしょ? 困ってますよね? それに、闇堕ちしてるじゃないですか」
また可愛らしく首を傾げたマオの言葉にはっとする。
そうだ、自分は闇堕ちしている。つまり、もはや魔王側の人間だった。
「
「闇力……そうだわ!」
魔王の証拠の角があるのに、魔王っぽくないどころか様子がおかしい子供マオ。彼の意味のわからなさに、つい聖女として思考してしまっていた。
いけない、聖女なんてもうやめだ。闇力を授かったのだから、やることはひとつ!
「人をさんざんこき使っておきながら、濡れ衣でわたしを断罪しようとしたこの聖クリスティア王国に……ていうか腐ったこの世界に復讐してやるんだからー!」
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