第7話 プレゼント
市の返答を持ち帰ったコウたちは、すでに疲弊している四人を前に宣言する。
「三日後に撤収する」
「逆にもう三日間は、ここにいろってことじゃないか」
リヒトが難色を示すが、雫に窘められた。
「こうなるのはわかっていただろう、いまさら言っても仕方ない。
どのみちろくな武装からなにもない以上、居続けるのだって難しい」
コウもそれを首肯する。
「エルフの郷が武装した人形の持ち込みを許諾しない以上、公的に僕らの打てる手立てはない。公的にはね。
そいでも荏原機の改修と、いくつかコンテナ物資の持ち込みはできた。
中身は集落から離れたポイントで開けるように言われてる」
コンテナになにが入っているかを察した雫と金華が視線を交わす。
なお、ノイはわかっていなかった。
「あの、コンテナっておやつとか入ってたり?」
「別途クーラーボックス内にカロリーバーとかレーションは入れてあるけど、んな可愛げのあるものじゃない」
コウの後に、金華が続けた。
「経験から言うと、分解されたライフルや機関銃のパーツ弾倉が入っている。
コンテナはそのまま展開して二機ぶんずつのシールドになるやつだね」
「それって武装じゃありませんか、郷のエルフたちにバレたら――」
「初期の交渉時点で、『完成された火器は持ち込まないこと』をシズくんが言質とったから、逆に完成されてなければ、こっちの世界で持ち込んでも仕方ないよね。そも魔法攻撃が主体の彼らには、火器という概念は乏しい」
「そんな詐欺みたいな……」
「そこは今回、大目に見ていただこう。
僕らが安全に撤収するため、最低限の防衛手段だ。
それは浮橋さんもわかってくれるよね?」
「う――は、はい」
雫に言われ、ノイは俯いた。
コウはノイが雫相手に強く出れないらしいことを気づく。
「アドバイザー、なんかあった?」
「いんやぁ、べつにぃ。聞きたきゃ本人に訊きなよ」
「いえ、私が悪かったんです」
「なぁアドバイザー、あんまりノイのことからかってやるなよ……」
「僕がそんな子どもっぽいことするやつに?」
「見える」
「うわぁ、信用がねぇな」
なぜかコウには、信用という言葉が無意識から重く感じられたが、それをなぜなのかは深く考えず、
「そんなことより――エルフたちの神経がぴりついている。
これ以上彼らを刺激せず、撤収するべきだ」
「そうだね」
ここで金華の態度も思わしいものではなかった。
「教官?」
「えぇ、わかってる。
市としてそれ以上のことは、私らの領分でできないことは下手にやるべきじゃない」
コウからすれば、あまり納得しているようには聞こえなかった。
大人としての分別はまだある答えだが……
*
支給品の茶のペットボトルに、おまけが括りつけてあった。
キッズアニメとのコラボらしい、『ジャガバタ戦隊ぽてレンジャー“ゆにばーす!”』ということは“続編”か。去年あたりやっていた初代は「じゃがレッド」「ブルー
」「イエロー」追加戦士枠に紫芋で「じゃがパープル」とかあったのが、今年は今年で「じゃがサラダ」「じゃがポーク」「じゃがナゲット」なるファストフード店への媚び売りみたいな名前の新戦士たちで始まったらしい。
「にしても、じゃがパープルってなんだよ……」
「知らない、ぽてレンジャー?」
「先輩、欲しいんですか」
「いいの、もらっちゃって」
「ヒーローとかサッパリなんで」
「パープルはアレだよ、ダークヒーロー的なやつ。
友達だった敵のイモ怪人に裏切られるんだけど、そいつ蒸し焼きにしてからもう戦友なんて作らないって、孤高の戦士になっちゃって」
「そのオタ語り、長くなりそうです?」
「あっはっは――ごめん」
「やっぱこういうの、金華先輩が持つのがよさそうですね」
「じゃあ遠慮なく――やった、ありがとう。
ふふ」
「?」
「初めてシズくんから、プレゼント貰っちゃった」
雫は眉をあげて、きょとんとするのだった。
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