第25話 異能者
「金華先輩は、ここで待っていてください。
大丈夫、どうせ僕は生きて戻りますから」
「だけど――」
「おそらく人形同士の乱戦になります、これでも場数は踏んでますから。
ほかの迷宮巣で戦ったことも、ないではありませんよ?」
そう豪語して、雫は例のストラップがついた携帯端末を、金華に投げて返す。
「これがあったから、寂しくなかったかもしれませんね」
雫はケラティオンの表層に黒いものを纏わせ、ヤシャの姿を造り出す。
(――と、強がっちゃみたけど。
派遣部隊のほかの連中はどうしよう。ヒサゴくんたちのことは嫌いじゃないんだけどなぁ)
「ナノマシン、か。
金華先輩の性格を知っていて、小隊まるごと人質にとられるとは、まぁある意味、課長らしいっちゃらしいが、あの阿婆擦れ、どう料理してやろう?」
*
秋津は機体を立ち上げつ、水瀬へ問う。
「次に来るのが本当に彼の本体だと、どうしてそう言い切れるんです?」
『きみらだって、土人形とエルフたち相手にやりあうのはいい加減疲れてるんでしょう、小競り合いにこそ持ち込まれてないけれど、それも時間の問題だ。
で、これは説明を端折るしかなかったが、俺の異能が“そういうもの”ってこと』
「最強の異能使い――」
『それは捉え方次第だな。
確かに軍事的な工作活動の様々をこなしてきた、そういう自負はないではないけど……異能にできることなんて、いつだって中間項でしかない。ことひとが生命を直接通して扱う程度のモノが、どれだけ不安定なことか。それでお金貰ってる側じゃあるけどね、やはり再現性があるという点で、数学やら科学というやつは素晴らしい、どんな異能より優れたる叡智だよ』
「それは、“観測所”とやらで得た知見ですか」
『んー、経験則には違いないね』
(やりにくい男だが、なるほど。
確かに飴川雫を引き摺りだすなら、この男の力が要る)
我々だけでは、到底らちが明かなかったろう。
――――――
元々雫は、物心つくまでは全盲の虚弱児だった。
おのれが精霊の落とし仔であることを、自他ともに気づかれないくらいには。おおよそ十歳になるころ、チンピラ三人組に路地裏へ連れ込まれ、カツアゲされそうになったのだが――、
「どっちも見えない目なら、潰したってたいして変わらないだろ」
という口上で、ナイフで両眼をすり潰された激痛にのたうち、虫の息になる中で、不覚にも精霊の力が初めて発現したのだ。
「な、なんだよこの黒いの!?」
「霧、靄か?」
「こいつなにしやがった、身体が――うわぁあああああ!!?」
そうしてすべてが終わると雫の視界は生まれて初めて、光を享受していた。
自分はチンピラたちの肉体を生きたまま、“地の権能”で捕食したらしい。
そうして現場に遺った制服や所持品を確認して、うち市販品のライターと、新たに身についた“火の権能”で証拠の一切を灰になって崩れるまでを確認した。人を殺した罪悪感より、証拠の隠滅を徹底することが思考を支配していて、当時を振り返っても、それはそれで自分は冷静じゃなかったんだろうと想う。もっとも、彼らに対する罪悪感をその後も感じることはなく――目を潰されたときの苦痛と憤りばかりは、忘れた頃にぶり返したりするのが、面倒くさかった。最近はそれすらも、段々薄れてきているが。
その後もっと酷い目には、いくらでもあったのだし。
精霊としての力をやがて雫は手さぐりしていくうち、おおよそこれを所謂五大元素的、地水火風空の属性に振り分けられることを把握していった。まぁそも、迷宮巣の向こうの精霊というやつについては、ちっとも知らないままだったが。
「どう考えても、人間の力じゃないな……こんなことできるやつ、魂魄鎧でも見たことはないし。目が悪いフリしてても、いつまで隠しおおせるんだろう」
両目は依然、遮光グラスをかけて、市街地に整備された点字ブロックやポールを頼りに歩行しているけれど、それでもいざ転倒しそうになって、視覚に頼る機会は増えている。いずれ周りにも勘づかれるだろう。
そうしているうち、養護施設の外で池緒渠と出会った。
――――――
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