#4  少女の美学に何を見る?



「今日は色々ありすぎたな…」

自宅である王子山探偵事務所に着くまでにレディから異能ミステルについて聞いたが、非現実的な要素ばかりで王子山はとても疲れていた。


大学時代の後輩・林が死んでそれは事故死として処理され、乗っていた電車でワスプとかいう針男に襲われ、助けようとした乗客の女の子・紅内くれないレディもその針男と同じく謎の力、異能ミステルを持っていて自分を助けてくれた。


そしてレディから異能ミステルの事について聞いた後、林を殺したのはサムライシャドウという人斬り幽霊の可能性が高いと言われ驚愕した。


なんでもサムライシャドウという奴は罪を犯した奴の元に現れて命を奪うらしい。


そもそも罪とは何だ?林は勿論前科持ちではないし、殺されなければならないほどの何をしたというのか。犯人の目星がついたと思ったらまた新たな謎が深まる。


王子山は一応探偵業を営んでいるが、やることと言えば探偵業法に基づいた聞き込みや張り込み、依頼者への報告などがある。意外と資格などもいらないのだからやれることはそれくらいだ。

殺人なんて血生臭い事件ヤマは警察にでも任せておけばいい。探偵がしゃしゃり出て犯人を捕まえるなんていうのは美化されたフィクションにすぎない。


もっとも警察を頼りに出来ないからそれをやるしかなくなってしまったわけだが。「探偵がそんな事する訳ないだろ」と笑い飛ばしたフィクションを自らやらねばならない。


そんな事を考えながら、今日は一眠りして明日調査に出かけよう。


そう思っていたのだが。




「なんで俺の事務所で寝てんだよ!」


レディはいつの間にか毛布をかけてソファーで眠っていた。

可愛らしい寝息を立てて。


闘っている姿は荒々しい戦乙女のようだが、こうして見ると見た目相応の少女。睫毛も長く顔はかなり整っている部類になるだろう。

これでも王子山にとっては命の恩人だ。聞きたいことを聞いてお茶も出さずにじゃあ帰れではあまりにも恩知らずだ。起こすのは明日の朝でいいだろう。


王子山も来客用の布団セットを押し入れから引っ張ってきて、レディと同じく泥のように眠った。








「ぐッもーーーにんッ!」


「のわぁぁぁッ!?!?」


レディの大声に王子山は差し込んだ日差しに目がチカチカと眩んだまま飛び起きた。



「あははっ!おはよう。昨日は寝ちってごめん。泊めてくれてありがとうね。」

「…いやいいけどよ。今何時だ?」

「お昼はもうすぐだね。」

「やばっ!寝すぎちまった!」



王子山は布団から飛び起きてそそくさと身支度をし始める。


鏡を見ながらネクタイを締めているとレディが王子山の後ろからひょっこり首を出しているのが鏡から見えた。



「ねぇ、身支度するなら見なくていいの?」

「なにが」


「レディちゃんの~な・ま・き・が・え♡」



「メシは近所のラーメンでいいか?外で待ってるから30分くらいしたら来い。」



「⋯。」





少し歩いて近所の味噌ラーメン専門店に着き、テーブル席に着いて食事を始めるとレディは不服そうに麺ともやしを口に運んでいた。


「なんだ、味噌ラーメンは苦手だったか?」

「いや、滅茶苦茶美味しいけどさ。私、女として魅力ないのかな~って思って。」


レディは苛烈な戦いぶりの割に少し童顔なのもあって、容姿はとても可愛らしい。モテる容姿をしている。やや平たい身体と謎のファッションは置いておいて。

ただ、アラサーとアラフォーの狭間にいるおっさんが熱視線を送っていたら相当に気持ち悪い。だから王子山はスルーした。



「別にそんなことはないぞ。というかお前トシいくつなの。」

「あ!淑女レディに年齢を聞くなんて御法度!紅内レディは18歳です!」

「答えんのかい。ていうかレディレディややこしいな…」


すると味噌ラーメンの具が少なくなってきた所で、厨房から無骨だが人のよさそうな店主の老人が話しかけてきた。


「おう!それにしても新ちゃん!今日は女の子連れてどうしたんだい。まさか隠し子か!?」

「違いますよゲンさん。成り行きで一緒に居るだけですから。」



レディの頭の上に?マークが飛び出た。



「ねぇ、そういえばおじさんの名前は?聞いてなかったや。」

「俺か?王子山おうじやま新太郎しんたろうだ。ちなみにあの人がこのラーメン屋の店主マスター、ゲンさん。」


王子山が親指で厨房を指さすと、おう!と威勢のいい返事が厨房から聞こえてきた。王子山はここの常連らしく、ゲンさんの飼っている猫探しの一件で仲良くなったらしい。



「王子山さん…うーんちょっと呼びにくいなぁ。王子山さんだから…」

「別に呼び方はなんでもいいぞ。」



「おじさん。」

「ぶっ飛ばすぞ。」

「何でもいいって言ったじゃん!?」


自分で名乗るのはいいが、人に言われると時の流れの残酷さを思い知って虚しくなる。


30代とはそういうお年頃だ。


聞いていたゲンさんはツボに入ったのか、大きな声で笑っていた。







昼食を済ませ、王子山探偵事務所に着いた二人は仕事用の長テーブルに対面で座り、インスタントコーヒーを飲んでいた。

レディが「紅茶はないの?」と聞いてきたため、仕方なく王子山が出したティーパックの紅茶を見事な所作で飲む。それもレディの嗜みなのだろうか。


「それもばぁちゃん直伝、『淑女レディの嗜み』ってやつか?っていうかそろそろ帰った方がいいんじゃねぇか?そのばぁちゃんとやらに迎えを頼んでよ。」


「⋯ううん、もう居ないんだ。三年前に病気で亡くなっちゃった。最後の家族がばぁちゃんだったから私、家族居なくてさ。高校卒業して生活費は切り詰めてきたけど、ばぁちゃんが残してくれたお金もそろそろ尽きちゃうんだよね。」



家族が居ない。

こんな未成年の少女の口から放たれた言葉はあまりにも重く、王子山は配慮が足りていなかったと頭を下げた。


「悪かった。俺には想像できないほど大変な思いをしてきたんだな。」

「いいよ。でも私は下を向かないって決めたんだ。ばぁちゃんのためにも。」


レディは窓に手を当てて空を見上げた。


近くで聞こえるツクツクボウシの鳴き声が青空に吸い込まれていく。



「若い頃は誰もが振り向く素敵な淑女レディだったんだって周りの人は言ってた。だからどんな困難が立ち塞がっても心だけは気高く愛を持って、そして踏み出せる準備が出来る人にって願いを込めて私の名前を付けてくれたんだ。だから私、ばぁちゃんみたいな最高の淑女レディになりたい。」


それが紅内レディの美学。


周りを見れば豪著な装飾品を身に纏い、街を歩く女性は居るだろう。残念ながらレディにはそれがない。流行を理解し、自分でそれを作ろうとしてえらく前衛的なファッションになってしまっている。



だが彼女の言葉と生きる様は何より気高い。王子山は、レディの人を惹きつけるカリスマ性をその瞳の奥に見た。



「あー…レディ。良かったらウチで働いてみるか?住み込みで。」

「え?」


怪訝な顔をしたレディに王子山は「しまった」という顔をした。



「いや良いんだ!お金も無くて働き口がないならと思っただけだ!こんなおっさんと一緒なんて嫌だよな。しかもあんまりバイト代も出せないしよ。」



「やる!ありがとうおじさん!」


ぱぁっとレディの表情が明るくなり、レディは王子山の手を握った。

年甲斐もなく驚いて目を見開いてしまう。


「こんな無邪気に笑う淑女レディがいるかよ。」

「やばっ!…ふふっ。ありがとう。これからお世話になるよ。」

「いや遅ぇよ。でもさっきのがお前の素なんだな。何となくお前の事が分かってきたよ。」




こうして


王子山とレディ(探偵助手)の奇妙な共同生活が始まったのだった。



「あ、レディちゃんのお風呂タイムは覗いちゃダメだからね♡」

「なぁ、お前さっき俺のことおじさんっつったよな。罰として風呂掃除しとけ。」

「聞いてないどころかペナルティ付き!?」




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