第25話「愛の名を呼ぶ、永遠のひまわり」

 十月十日の夢のような日々が過ぎて。

 僕は病院のベッドの上で、腕の中にいる小さな温かい命を見つめていた。

 数時間前に生まれたばかりの、僕たちの息子だ。

 蓮のプラチナブロンドの髪と、僕の栗色の瞳を受け継いだ、天使のように愛らしい男の子。

 陣痛は想像を絶する壮絶なものだったが。

 蓮がずっと僕の手を握りしめ、そばにいてくれたから乗り越えることができた。

 そしてこの子の産声を聞いた瞬間、すべての痛みが吹き飛んでしまった。


「…可愛いな」


 僕の隣で蓮が、赤ちゃんの小さな、小さな指をそっと撫でながら言った。

 その声は感動で、震えている。

 彼の大きな瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「名前、決めたんだ」


 蓮が僕の顔を見て、言った。


「うん?」


「陽向(ひなた)。太陽の陽に、向かう、と書いて陽向」


 ひなた。

 なんて、素敵で温かい名前だろう。


「ひまわりがいつも太陽に向かってまっすぐに咲いているように。明るく、健やかに育ってほしいという願いを込めて」


「…うん。すごく、いい名前だ」


 僕は、うなずいた。

 腕の中の陽向が、ふにゃりと小さな口を開けてあくびをした。

 その仕草の一つ一つが、愛おしくてたまらない。

 僕たちはこの子を、命をかけて守っていこう。

 そう、心に誓った。


 陽向が僕たちの家にやってきて。

 僕たちの生活は、さらに賑やかで幸せなものになった。

 慣れない育児に戸惑うこともたくさんあったが。

 蓮は仕事で疲れているはずなのに、夜中のおむつ替えもミルクも率先して手伝ってくれた。

 陽向をお風呂に入れている時の彼の顔は、世界一幸せな父親の顔をしていた。

 そんな彼の姿を見ているだけで、僕も幸せな気持ちになった。


 蓮の両親も健太も、陽向の誕生を心の底から喜んでくれた。

 特に、あれほど跡継ぎにこだわっていた蓮の父親が、陽向をでれでれになって可愛がっている姿は少し意外で、そしてとても微笑ましかった。

 僕たちの周りには、たくさんの愛が溢れていた。


 陽向が一歳になった夏の日。

 僕たちは三人で、長野のひまわり畑を訪れた。

 一面に咲き誇る、黄色いひまわり。

 蓮は陽向を、しっかりと肩に抱きかかえている。

 陽向は初めて見るたくさんのひまわりに、きゃっきゃっと声を上げて喜んでいた。

 その無邪気な笑顔は、太陽のように眩しい。


「見てるか、陽向。ここが、父さんとパパが初めて出会った場所だぞ」


 蓮が陽向に、優しく語りかける。

 僕たちは、あの大きな木の下に腰を下ろした。

 幼い頃、僕たちがそうしていたように。


「湊」


 蓮が、僕の名前を呼んだ。


「ん?」


「愛してる」


 彼は何の前触れもなく、そう言った。

 そして僕の唇に、優しいキスを落とした。

 隣では陽向が、僕たちのことを不思議そうに見上げている。

 僕は照れくさくて、顔が赤くなるのを感じた。


「僕もだよ。愛してる、蓮。それから、陽向も」


 僕は二人の愛する家族を、ぎゅっと抱きしめた。

 蓮の温もり。

 陽向の温もり。

 二つの温かい太陽に包まれて、僕は世界で一番の幸せ者だと思った。


 かつて、僕の世界は灰色だった。

 けれど、今は違う。

 僕の世界はひまわりのように、鮮やかな黄色に満ち溢れている。

 蓮という太陽がいて。

 そして、陽向という新しい光が生まれたから。

 愛する人の名前を呼ぶ。

 それだけで、世界はこんなにも輝き出す。

 僕たちの愛の物語は、永遠に続いていく。

 この、永遠に咲き誇るひまわり畑のように。

 いつまでも、いつまでも。

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