囚われのRei

蓮羅

壊れた人形


私はただの操り人形。

——それが、Rei


私には、守らなければならない掟がある。

破ったものには厳しい処罰を。


「分かっているだろうな、零。掟を破ることはいくら娘のお前でも許されない。今回の任務遂行に力を入れろ」


「御意」


私が頷くと目の前の男は不敵に微笑んだ。



【一、組長の掟は絶対である】


私は軽く頭を下げ、無駄に広く静まり返った部屋を後にした。


ここはやっぱり息が詰まる…


この家もお父様のあの態度も、昔から何も変わっていない。


もうすぐこの家から出られると思うと、あの任務を引き受けて正解だったのだろう。


私は幼い頃、二階堂組の組長である『二階堂 剛(ゴウ)』に拾われた。

それが私の今のお父様。


そして『二階堂 零(レイ)』という名を与えられ、何不自由なく生活を送ることができている。


だが、その代償に奪われたのは私の”自由”


表では、『西園寺 麗(レイ)』を名乗り普通の高校に通い、裏ではお父様に与えられた任務を遂行する。


それが2つの顔を持つ“Rei”であった。


そして、今回の任務は『鴉(カラス)』と呼ばれる存在を抹殺すること。


頭脳と戦闘能力に長けた天才で、その素顔を知るものはおらず、裏社会でも注目されている。


私にとっては因縁の相手である。

機は熟し、ついに待ち望んでいたこの時が来た。


彼らに復讐を——。


だから私は今回裏の顔を隠し、ターゲットが潜む街で生活をするため、ある学園に転校することになった。


「零」


聞き覚えのある声が耳に入る。


「…なに」


「ったく、相変わらず愛想がねぇな。お兄様(ハート)くらい言えねぇーのか?」


相変わらずうざい人だ。


「おっと、無視か…まぁ、いい。お前、もうここ出るのか?」


「ん。」


この人はお父様の右腕『早乙女 翔(ショウ)』

私をいつも気にかけてくれる唯一の組員。


目にかかるくらいの落ち着いたブラウンの髪に、少し焼けた肌、顎に少しだけ残るヒゲがグッと大人な色気を醸し出している。


「そうか、じゃーな。気をつけて行けよ。いつでも会いに行くからな」


「…」


翔は私の短い黒髪をクシャっと撫でた。


この屋敷では、服装、髪型、性格まですべてが制限されている。

私は私であってはならない。


【一、組内では男の姿で振る舞うこと】


私は正門を出て、用意された黒塗りの高級車に乗り込んだ。


「零がいないと寂しくなっちゃうなぁ…」


私より先に車に乗り込んでいたのは、私の義理の弟『二階堂 優(ユウ)』

ふわふわの白に近い髪の毛を遊ばせながら、クリクリの瞳を三日月にする。



私の一つ下の高校1年生で、お父様の一人息子である。


「優」


「うん、お見送りしたかったからさ。僕も遊びに行っていいよね?」


「…別に」


来ないでほしい。

だか、それを口にすることはできない。


「やったぁ…離れてても僕たちは”キョウダイ”だよね?」


ニコッと可愛らしい笑顔を浮かべるが、目の奥は笑っていなかった。


——嫌な予感がする。


優が私に抱くコンプレックスは思いのほか大きいのだ。


彼は昔から卓越した情報収集能力と戦闘センスを持ち合わせており、私とは比にならないほど組のために貢献してきた。


若くして、

お父様の右腕に近い存在と言っても過言ではない。


そんな優がなぜお父様に評価されないのか、

なぜ私ばかり任務を任されるのか。


それは——



「つきました」


車で30分ほど走った先に到着したのは、私が暮らす新しいマンション。


「バイバイ、零」


優とお別れをして、新居へ向かった。


ここは20階建てのマンションで、オートロックなどセキュリティは万全。


用意された一室は、すでに家具や荷物は揃っていて、

恐らく組の誰かが用意してくれたのだろう。


2LDKのモダンで統一された無機質な部屋。

寝室のクローゼットには新しい制服がかけられていた。


…明日から新しい任務。


不安と期待に胸がドクンと波打った。

うっすらと口角を上げる。






——これが波乱の幕開けだとも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る