第3話 出発前日

明日はいよいよクッションバイトなるものをしに旅立つ日だ。

妻とはあの日以来何となくぎごちない時間を過ごしている。

思えば今の妻には苦労ばかり掛けているな、まだ30かそらこらなのに俺みたいなの引っかかったばっかりに波乱万丈な日々を送る羽目になっちまった。


子供たちの寝顔を見て思う、こんな俺をパパ、パパって慕ってきてくれる、前妻との子供の時は小さいうちに引き離されてなんの思い出も作れなかった。

そんな俺にとってこの子の入園式に出れたことは死ぬまで忘れることの無い宝物のような時間だ。

今年産まれた子が大きくなる頃には俺はもうこの世にいない可能性の方が高ぇ、はぁ、我ながらやらかしてんなぁ。


ふと時計を見る、もう夜中の2時だ。

「起きてる?」

『起きてるよ、俺が夜眠ることないのはいつもの事じゃん。』

「身体気をつけてよ?」

『うん、そっちこそ無理は禁物だよ。』

、、、、、こういう時、ほんとに言いたいことほど言葉にはならないもんだな。


「帰ってくるよね?」

『うん、帰ってくるさ』

多分俺は帰らない

否、帰れないだろう。


「幸せになりたいね」

『なれるさ』


その幸せの対極に座して居るのが俺だけどね。


「、、、、」

『泣くなよ、、、そしてどうせなら俺を恨め、いつか俺を殺しに来い。』

「わかった」

『もう寝な?夜更かしは美容に悪いぞ?』

こんな事言いたいんじゃない、ずっと一緒にいて欲しいんだ。

けど、、、、俺は居るだけで不運と不幸を呼ぶ。

俺なんかが人並みの幸せを求めちゃいけないんだよ。

だって、、、、俺は復讐の名のもとにこの二十年で多くの人を不幸して傷つけ踏みつけて来たんだから、だから俺は今回の仕事で、、、、叶うなら、、、







この命を落とす事になって欲しいと願っている。


『ほらほら、夜はまだ寒いし寝よ寝よ』

偽りに塗れた笑顔で強気という虚勢を張った態度で妻にこれで最後になるだろ『おやすみ』を言う。


願わくば事故物件が俺にとっての地獄でありますように。





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