第22話 ひび割れたダム

津田を見送った後、街灯に照らされた道を一人で歩いていた。

--また、あそこに戻るのか。

歩く速度はどんどん遅くなり、亀よりも遅いのではないかという速度になった。それでも結局、大学寮についてしまった。俺はゆっくりと寮の中へ入って行った。


関水はいつもの部屋にいた。

関水「お前。変な事言わんかったか?」

「いえ、何も。」

関水の声と顔には怒りと焦りが混じっていた。

--何だ?何があった...?


ドンッ

関水はソファーに腰掛けた。

関水「明日の事、覚えてるか?」

--忘れていた。明日は便利屋が来る日だ。


関水「頼むぞ」

「はい。」


翌日の部活がはじまる直前。

「竹田さん、今日お昼講堂で見かけたけど、何の講義を受けてたの?」

俺は竹田に話しかけ、道場前で足を止めさせた。


竹田「えーと。簡単に言うとですね、細胞の話です。」

竹田は満面の笑みを浮かべている。

--良かった。楽しそうで。


「へー。難しそう」

関水「お二人さん、何話してるの?」

気色の悪い笑みを浮かべ関水が近づいてきた。瞬間、竹田さんから笑みが消えた。


そこへ道場前に車が止まった。

ガチャッ

運転席が開き、スーツを着た男が紙袋を片手におりてくる。ピシッと決まったスーツは、大人の雰囲気を醸し出している。

スーツの男「関水さん。この前はどうもありがとうございました。つまらないものですが、どうぞ。皆さんとお召し上がりください。」


俺は竹田の顔を確認する。

ぽかん。疑問符が顔に浮かんでいる。


スーツの男「関水さん。この女性は彼女さんですか?」

関水「違いますよ。でも、わざわざ大学までこなくても良かったのに」

--あまりの芋芝居に見てられない。


竹田「違います!」

表情が冷たい。

スーツの便利屋「いや、あまりにお似合いだから」

スーツの便利屋「この人がいなきゃ。僕ここにいられなかったんですよ」

--便利屋はやっぱりプロだ。よく笑わずに演技できるな。


関水「いや、この人この前事故にあって、倒れてたから、すぐ手当して救急車呼んだんだ。」

「さすがっす。関水さん。」

--よし、俺のセリフ終了。それにしても、関水は不自然だな。


スーツの男「その説はありがとうございます!」

スーツの男「関水さんは皆さんに慕われてそうで羨ましいです。それでは、僕用事があるので帰ります。」

関水「忙しいのにわざわざお礼なんて。お菓子美味しくいただきます!」

無事ショーは幕を閉じた。竹田は冷たい表情のままだった。


竹田「部活始まりますよ。」

言葉は冷たい。竹田さんは何も無かったかのように、部活の準備を始めた。関水の方に視線を移すと焦りの表情を浮かべていた。


--竹田さん怖い顔してたな。一体関水と何があったんだろう。こいつの事だから、本当にひどい事したんだろうな。

そんな事を考え胸が潰れそうになった。罪悪感で壊れそうになる。

--壊れて逃げてはダメだ。ちゃんと責任を果たさないと。


部活が終わり、竹田さんはそそくさと帰路へ向かった。


関水「おい!何なんだ!あの女!」

関水「態度悪すぎだろ!仮にも俺は先輩だぞ!

"凄いですね"とか、"カッコいいですね"とか、普通はあるんじゃないか!」

怒りが収まらない様子だった。俺の心臓は早鐘のように打ちはじめた。


関水「おい。あの女一回締めるか。」

一瞬、心臓が止まる。

--やばい。絶対に止めなければ。


「何言ってるですか。竹田さん恥ずかしがり屋ですよ。」

関水「本当か?」

--どうにか抑えなきゃ。


「竹田さん、関水さんの事かっこいいって言ってましたもん。」

関水「お前、誰の許可を得て、桜ちゃんと話してるの?」

--ホッ

怒りの矛先が俺に変わった。だけど、このままじゃ竹田さんが危ない。いつ、また矛先が向くかわからない。


「すみません。関水さんとお似合いだから、ついサポートしたくて。」

関水「まあ、許してやる。次からは許可取れよ。出さんけど」

--単純だな。幼稚園児みたいだ。だけどそろそろダムが崩壊しそうだ。


その場はどうにか収まった。だが、手を打たなければ、悪の手が彼女に向かってしまう。これ以上、俺は罪を背負えない。


月灯りに照らされる津田の背中が脳裏に浮かんだ。


--あいつならどうするのかな...

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