第20話 蜘蛛の糸はここに?

外では楽しげな声が聞こている。何も考えたくはない。ただただ救いが欲しかった。部屋を見渡すとロープがあった。寮生が倉庫代わりに使っているから、誰かが置いて行ったのだろう。


スマホを開き、あることを検索した。

--あった。

俺はスマホに映し出されたとおりに、ロープを結んだ。その結んだロープを見て、自然と微笑んでいた。


--こんな近くに蜘蛛の糸はあったんだ。これで地獄から抜け出せる。楽になれる...


ドタドタッ

足音が近づいてきてる。俺は咄嗟にロープを隠した。


関水「おい。いい事思いついたぞ。」

ニヤニヤとねちっこい表情が鼻につく。

関水「誰かに、桜ちゃんに因縁つけてもらって、俺が助ける。」

扉の外からはテレビの中からの笑い声が聞こえる。時計を見ると、昼の12時すぎだった。


--吉本新喜劇の影響か。相変わらず、単純。頭の中はいつまでも小学生なんだな。


「誰かって、誰ですか?」

関水「河原にホームレスいるだろ。金払えば動くだろ。」

--馬鹿馬鹿しい。お金の無駄遣いだ。だけど、竹田さんがまた危険な目に遭うのか。俺だけ救われるのはダメだな。巻き込んだの俺だし。どうにかしないと。


関水「助手席直しといたから。ありがたいだろ。」

--こいつ、何言ってんだ。お前の修理よりも修理代を寄越せ。


駐車場へ行くと、ボコボコではあるが、確かに助手席は乗れる状態になっていた。

--なにが修理だ。ただ、歪みを力づくで戻しただけじゃん。


奴は助手席に乗り込んだ。俺は異様な車を走らせ、河原へ向かった。


河原に到着すると、すぐさま関水は助手席を飛び出す。俺は奴の帰りを待つことになった。車内から高校生達が自転車で堤防を走っている。たくさんの笑顔と笑い声がそこにはあった。

--青春だな。俺にはなかったけど...


しばらくすると、血相を変えて関水がもどってきた。

関水「どうなってるんだ!みんな断りやがる。」

関水「金欲しくねーのかよ!だから、あいつらホームレスなんだ!」


--フッ

思わず笑いかけたが寸前で堪えた。集会での演説が頭をよぎった。

--こいつ成金男と一緒じゃん。


関水「黙ってないで、何かいい案考えろ!」

関水「何で俺ばっかり案出さなきゃいけないんだ。」

--何言ってんだ... なんで俺が...

関水の思考は相変わらず俺の理解の範疇を超えていた。


案を適当に捻り出す。

「便利屋行けばいいんじゃないですか。」

関水「それだ!」

--アホだ。便利屋が因縁つけるなんて、違法だからやるわけ無いのに...


関水はすぐさまスマホを取り出し、周辺の便利屋を検索しだした。

--本気の顔だ。...馬鹿馬鹿しい。


関水の指示に従って、便利屋に向かって車を走らせた。便利屋に入ると、様々な物がいっぱい置いてあった。

--便利屋は本当に色んなことやるんだな。


受付の男が出てきた。関水は真面目な表情で因縁つけて欲しいと頼み出す。受付の人は真面目な表情で聞いていた。

--凄いな。便利屋の人笑わずに聞いてられるんだ。


関水「できないってマジですか」

便利屋「違法行為ですからね。女性を脅すのは。」

便利屋「僕が、お客様と女性が一緒にいる時にお礼に行くとかならできますよ」

関水「それいいですね。それでお願いします。」

--本気で、それでより戻せると思ってるんだ。すごいな。とりあえず、竹田さんは怖い思いしなくて済むからいいか。


便利屋と日程を決めた後、大学寮へ戻った。俺は傍のロープを見つめていた。

--まだ、頑張れるな。耐えられなくなったら、この蜘蛛の糸を掴めばいいや。


もう少しだけ、この地獄で足掻いてやる...


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