第2話 迷宮の入り口

痩せ細った眼鏡男「先輩、僕らも自己紹介しましょ!誠太くんがかわいそうですよ!」

大男「そうだな!俺は小田雄介!工学部土木工学科の4回生だ!よろしく!」

気怠そうな男「尾瀬怜でーす。教育学部の体育科3回生、よろ」


上級生から順々に自己紹介が続いた。


痩せ細った眼鏡男「関水宗介っていうんだ!工学部電気電子科2回生!」

関水「今日は空が目に沁みやがるなー」

小田「また何を訳わからんこと、言ってるんだ関水!」


--関水どこかで聞いた事あるような気がする...

それにジェットマンのブラックコンドルのセリフか?


「あ、あの、ブラックコンドルのセリフでしょうか?」

関水「え、知ってるの!もしかして特撮好き?」

「えっと、好きです。」

関水「マジか!気が合いそうだな!」


ニヤリとした表情にどこか違和感を覚えた。目だけが笑っておらず、こちらを観察しているように感じた。

--いや、気のせいだろう。俺はすぐに人を疑う所がある。この人は周りからも信頼されてそうだし。きっと良い人なんだ。


尾瀬「変人が増えるのは勘弁だな。まあ入部するなら頑張れ」

小田「尾瀬は相変わらず無愛想だな!

もうすぐ田中くんと同じ新入部員が来るよ」


ガラガラッ

同じ講義で見覚えのある奴が入ってきた。


見覚えのある奴「うーすっ。ちょっと見学したいんですけどー」

小田「おー見学人が2人も!今年は新入部員多くなりそうだな」


ガラガラッ

ムスッとした眼鏡が入ってきた。

ムスッとした眼鏡「ちわっす」

小田「横田!見学者だ!自己紹介してくれ」

ムスッとした眼鏡「横田岳です。教育学部の体育科です。」

見覚えのある奴「うっす。津田輝です。工学部機械工学科っす。よろしくっす」

「えっと、田中誠太です。同じく機械工学科です。よろしくお願いします」

津田「...いたっけ?」

田中「えっと、後ろの方で講義受けてるから、その、いたんだけど」

津田「ふーん。まあいいや。」

--なんだこいつ。無愛想なやつだ。


小田「それじゃ、稽古始めるか。2人は見てて。」

そして稽古が始まった。


バン!!


皆の技の迫力に思わず息を呑んだ。部活のレベルが恐ろしく高く見えた。まるで頂上の見えない山の前に立たされているようだった。

--逃げたい。


津田「田中はなんで部活見学来たの?」

「浪人してたから運動できてなくて。久々に運動してみようかなって。津田くんは?」

津田「似たようなもんだよ。浪人はしてないけど」

「そっか・・・」

--なぜこいつは余裕綽綽と稽古を見てられるんだ?

不思議でしょうがなかった。


津田から稽古に目線を戻す。

--うーん、やっぱり関水ってどこかで聞き覚えがあるんだよな。

道着の背中の"関水"という文字が目に入った時、ふと昔の一場面が頭によぎった。



高校3年最後の大会。

夏の陽気と人々の熱気で試合会場はむせ返るような暑さだった。


俺は一回戦で敗退し、観客席から試合を見ていた。それは準々決勝だった。試合に負けた男は畳から降りた。すると観客席の下から負けた男に一人の男が歩み寄っていった。歩み寄っていた男は異常な怯え様だった。あまりの怯え方に目が離せなくなった。

--たった今負けた奴に怯えてるのかな?

負けた男の方を見ると、背中の道着には”関水"と書かれていた。



--そうだ!関水だ!

県大会ベスト8だったやつだ!

あの男があまりに怯えてたから怖い奴だと思ってたけど、本当は優しい人なのかな?


関水は稽古で皆に投げられボロボロになっていた。観客席から見ていた時の雰囲気とはかけ離れていた。


俺は思い出した事を津田に話した。

「思い出したんだけど、関水さん確か県大会ベスト8だよ。なのに簡単に投げられてる。みんなレベル高いね」

津田「ふーん。そうなんだ。俺もベスト8だから一緒か」

「嘘っ。津田くんめちゃ強いんだ」

津田「いや、そうでもないよ」


--やばい、俺ここにいちゃダメじゃね?みんなレベル高いし。だけど、就活を少しでも有利にしなきゃ。とりあえず部活やるしかないか。



ガラガラッ

皆「ちわっす!!」

40代ぐらいの威厳があり、優しそうな雰囲気の人が扉を開け入ってきた。

威厳のある人「こんにちは。おっ!見学人が2人もいるじゃん。いや〜うれしいね。」

威厳のある人「大木です。柔道部の顧問してます。ぜひ入部検討してくださいね。」

「田中誠太です!よろしくお願いします!」

--良かった。優しそうな人だ。


このあと俺は入部を決めた。津田も入部することになった。俺は逃げなかった自分に安心感を抱きつつも、場違い感を覚え不安を感じていた。


こうして柔道部生活が始まった。同時に迷宮の入り口に入ってしまったとは気づいていなかった。


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