推しが俺を倒しに来たので、全力で推し返した件

小説王に俺はなる!!

第1話 推しが俺を殺しに来た日

この世界に“救い”なんてない。

 ──そう思ってた、あの日までは。

 夜中、蛍光灯がチカチカする六畳間。

 俺は疲れ切った高校二年生、神城レン。

 進路も、友達も、夢もなくて。唯一の癒しは、画面の向こうの“推し”だった。

 白銀の髪、透き通る声。

 配信界の光——Vtuber《ルミナ=レイ》。

 「みんなの闇を、光に変えてあげるね」

 初めてその言葉を聞いた瞬間、泣いていた。

 馬鹿みたいに、涙が止まらなかった。

 それから俺の人生は、ルミナ中心に回り始めた。

 通知が来れば即視聴、スパチャもバイト代の三分の一。

 友達に笑われても関係ない。

 だって、俺を救ってくれたのは──推しだから。

 ……けど、その日。

 俺の推しは、俺を殺しに来た。

 放課後の帰り道。

 夕焼けが溶けた空に、奇妙な亀裂が走った。

 ガラスを割るような音。次の瞬間、空間がねじれて、世界の色がひっくり返る。

「……なに、これ」

 街路樹が溶け、アスファルトが光る。

 そして“それ”は現れた。

 白銀の髪、蒼い瞳。

 俺の画面の中にいた、あの人。

「――神城レン。あなたを、排除します」

 息が止まった。

 夢でも幻でもない。

 俺の“推し”が、目の前に立っていた。

 ルミナ=レイ。

 俺の心を救った存在が、今は俺を見下ろしている。

「どうして……ルミナ、さん?」

 彼女は首を傾げた。

 その仕草さえ、いつも通りで。

 けれど瞳の奥には、冷たい光。

「この世界を壊す“鍵”は、あなたの中にある。だから、倒さなきゃ」

 意味がわからない。

 でも、確かに伝わった。

 彼女は本気だ。俺を殺す気だ。

 右腕が光り出した。

 刻印のような紋章が浮かび、俺の心臓が焼ける。

「やめて……くれ……っ!」

 轟音。地面が砕け、衝撃波が走る。

 周囲の建物が吹き飛び、視界が白く染まった。

 気づけば、俺は瓦礫の上に倒れていた。

 息が苦しい。けど、まだ生きている。

 ──そして、胸の奥が、熱く燃えていた。

「……推しが俺を倒しに来るなら」

 血を拭いながら、立ち上がる。

 震える手を握りしめ、叫んだ。

「俺は全力で、推し返す!」

 その瞬間、俺の紋章が爆ぜた。

 ルミナの瞳が、驚きで揺れる。

 画面の向こうにしかいなかった“推し”との、本物の戦いが始まった。

次回:「推しと俺、初めてのタイマン」

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