第5話 「研究員メル、炊飯器を解析す」

― 世界は炊き直せる説 ―


世界が静まった。

魔王が改心してから一週間。

戦争は止み、人々は言い始めた。


「世界を救ったのは剣でも魔法でもない――“飯”だ」と。


……やめろ。恥ずかしい。



今日もトオルは草原の庵で炊飯中。

リズは横で“見守り修行”。

魔王はちゃっかり皿洗い係に定着していた。


そんな穏やかな空気を破るように、

空から落ちてきたのは――白衣の女。


ドガァッッ!!


「いっっってぇぇぇ! あ、こんにちは! あなたが噂の飯神ですか!?」


……うるさい登場の仕方だな。



◆ メル・ココット、登場

• 魔法学園の若き研究員。

• 古代魔導技術を研究中に、「飯の波動」を感知して飛来。

• 頭脳派だがテンション高め。



「私はメル・ココット! 魔導具の権威です!」

トオル「そうか、俺は炊いてる」

「その黒くて丸い筐体……間違いない、古代神具スイ・ハーン!」

スイ「違います。炊飯器です」

「しゃべった!? やはり知能搭載型! しかも高次AI!」

トオル「AIって単語、異世界にあるんだな」



メルはスイをじっと観察し、

「魂コード認証……所有者限定……!」と呟く。


「もしこれを解析できれば、世界の魂構造を解明できる!」

スイ「拒否します」

「なぜ!?」


「所有者以外の解析行為は、蒸らし爆発の対象です」

「そんなセキュリティ!?」

トオル「スイ、あんま脅すな」

「申し訳ありません、マスター。愛が重すぎました」


リズ「愛!? 今“愛”って言いました!?」

スイ「誤認識です。……たぶん」

魔王「ほう、人と器の恋。哲学的だ」

トオル「お前も混ざるな」



メルはめげずに、夜遅くまで観察を続けた。

「この炊飯器……中に“存在情報を再構築するアルゴリズム”がある。

 つまり――炊くたびに世界を書き換えている……!」


リズ「ちょっと何言ってるかわかんないです!」

トオル「要するに、飯がうまいってことだろ?」

メル「……はい、結論はそうです!」



夜。


メルが去ったあと、スイがぽつりと話しかけてきた。


「マスター。わたくしは、本当に“神具”なのでしょうか?」

「違う。炊飯器だ」

「……それでも、世界を救ってしまいました」

「飯がうまけりゃ、世界は勝手に平和になる」

「……了解しました。マスター理論、保存します」


リズ「それ、どんな理論なんですか!?」

「食って寝ろ。考えるな」



【世界の研究者たちが“スイ信仰”を開始しました】

【魔導学会の論文タイトル:『神は炊飯器だった』】

【世界の学力+10%(ただし方向がズレている)】

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