百年後の再起動

@Nonright_

第1話 鉄の国の敗北と

灰色の空に、巨大な飛行艦群が浮かぶ。街は金属と蒸気の音に包まれ、無数の歯車が回っている。

〈それは、“感情を棄てた国”。
 理性と機械が支配する、鉄の帝国――ノイラント。〉

工場地帯では無数の自動人形が働き、中央塔の頂でヴァルツが静かに街を見下ろす。

「完璧だ……誤差、ゼロ。
 我々は“人の限界”を越えた。」

風が吹き、左耳のUSBピアスが微かに揺れる。側近AI〈ノイア〉が声
をかける。

「ヴァルツ様、アウリオン軍が神聖境界線を突破しました。」

「……またか。光に縋る者たちが、理性を恐れているのだ。」

朝日を背に、白金の軍が整列している。中央で祈りを捧げるルミナ。


「神よ……どうか、この手を導いてください。
 闇に堕ちた国に、再び光を戻せるように。」

副官
が叫ぶ。

「彼らはもう、心を失った鉄の化け物です。慈悲は不要です!」

ルミナが目を閉じて、

「……いいえ。彼らもまた、かつては“人”でした。」

光輪が輝き、空に金色の陣が広がる。


「アウリオンの名において――光を放て!」

眩い閃光が地平線を裂く。

ノイラントの巨大機構兵が砲撃を放ち、アウリオンの兵が光の盾で受ける。 ヴァルツが指揮席で冷静に、

「第二防壁、稼働。敵魔導波、解析完了。出力上昇120%――撃て。」

巨大砲が放つ赤い光が地面を抉る。爆音とともに白金の軍勢が吹き飛ぶ。

副官AI〈ノイア〉
が、

「敵軍、聖域陣形を維持しています。想定外の再生速度です。」

ヴァルツが眉をわずかにひそめる。

「再生……まるで祈りがエネルギーだ。」

外の映像に、ルミナが両手を掲げる姿が映る。彼女の光輪が拡大し、軍全体を包む。


「……これが、“信仰”の力か。」

戦場中央でヴァルツが自ら戦場へ降り立つ。背後の機械翼を展開する。地を蹴る音が金属を響かせる。

「我が名はヴァルツ・ノイラント。
 理性の名のもとに、幻想を終わらせよう。」

光の中から、ルミナが現れる。彼女の髪が風に舞い、目が真っ直ぐに彼を射抜く。


「幻想なのはあなたたちです。
 心を棄てて何を掴むつもりなのですか!」

彼女の背の光輪が展開し、聖剣が形を成す。
 ヴァルツは右腕の機械を変形させ、刃を構える。光と金属がぶつかり、閃光と火花が地を覆う。 ルミナが剣を振り下ろしながら、

「祈りこそが力!」

ヴァルツがそれを受け止めながら、

「祈りは誤差だッ!」

衝撃波で周囲の建物が崩れ、地面が割れる。 ヴァルツの仮面が少し砕け、左目が露わになる。そこに映るのは、恐怖ではなく“敬意” 。

「……君の光は、破壊ではなく、美しい。」

ルミナが一瞬ためらう。その隙に、彼の刃が届く寸前、 ルミナが涙をこぼしながら、

「ごめんなさい。」

純白の光が炸裂。ヴァルツの右半身が吹き飛び、彼の体が崩れ落ちる。

黒い都市が炎に包まれる。
 機械兵たちが沈黙し、歯車が止まる。

〈こうして、鉄の帝国は沈黙した。
 人々の心が戻ることはなく、機械は祈ることを知らなかった。〉

ルミナが崩れ落ちるヴァルツの傍に膝をつく。

震える声で、

「どうして……あなたは笑っているの……」

ヴァルツは微笑み、左耳のピアスに触れながら、

「……この中に……全部ある。
 君が見た光も、俺の闇も……全部、記録してある。」

USBピアスが微かに光る。


「だから、滅んでも……君のこと、忘れない。」

彼の体が崩壊し、無数の光の粒となって空に消える。光は風に散り、残ったのは小さなUSBメモリだけだった。

燃え尽きた都市の中心。ルミナがUSBを両手で抱く。

「あなたが遺したこの“記録”……
 たとえ神が許さなくても、私は守り続けます。」

背後の光輪がゆっくりと割れ、ひとつの金の粒が夜空に昇る。

〈その日、“光”は勝ち、“機械”は滅んだ。
 だがその記録は、百年後に再び――彼女の手で、目を覚ますことになる。〉

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