【第二部】エンドロールはありません。

夏野夕方

十三章☆第三の人生(1)-???-

 赤い光に包まれ、自分の意識が遮断された後、瞳を開けるとそこには、一度来たことのある白い空間があった。世界と遮断される前に私を抱きしめてくれた彼は、まだ目覚めていない。私は彼の頭を自分の太腿の上に置いて、息を吸いながら視線を上げた。

 存在を視認する。久しぶりに会ったそのイキモノは、私のことをただじっと見つめている。何色かも定まらない瞳と、透き通るような白い肌と、髪。そして、ピクリとも動かないその身体よりも大きな羽。

「……天使様、久しぶり」

 声をかけると、イキモノは口を開いた。

「随分と早かったですね。いかがでしたか? 何はともあれ、準備は整っております」

 ――ゲームオーバー……。

 天使様の足元には、積み重ねられたノートがあった。ノートの表紙には『コンティニュー①』と書いてある。これが、ゲームの本体なのだろう。予想した通り、あの世界は脚本家の創ったもので、他には何もなかった。

「もう、やり直すことはできないの?」

 私の小さな願いに、イキモノは瞬きした。人生に執着するだなんて考えてもいなかったのだろう。

「『ゲーム』なんだからやり直しをさせてください」

「それはできかねます」

 ――やっぱりね。約束だもんね。

「お願い」

「できかねます」

「お願い。やり直したい」

「できかねます」

 ロボットみたいに返答するそのイキモノに、だんだんと反抗する意思が失われていく。

「なんで? 他の人は、自分が死んだ後も元の世界に居続けられるのに。何もできなくても、居続ける選択はできるのに。それさえもできないの?」

「できかねます」

「あの世界が存在しないから?」

「はい」

「そっちが勝手に用意したのに?」

「はい」

「キャロル様を殺したのは、私のせいだってことなの?」

「内容については、把握しておりません」

 不干渉で、無感情な言葉に、私は涙を流していた。ぽたぽたと、水滴が膝の上で眠る彼の頬を伝う。天使様は瞬きをゆっくり二回した。

「どうして泣くのですか」

 誰も、私の犯した罪について罰しない。私のことを責めることもなく、罪を追求することもなく、改善策もなく、チャンスさえもくれない。

 ――こんなにひどい結末があるだろうか。

 ゲームなのにやり直しもなく。ゲームなのに救えた命も救えず。ゲームなのに、運命を変えることもできなかった。

「……ケリー」

 寝ていた彼の瞳が開いて、私を見上げた。彼はすぐ起き上がって、状況を確認する。

「し、死神!」

 ――あ、死神って呼ぶタイプなんだ。

 彼も同じ姿の天使様に会ったということは、このイキモノはクローンなのだろうか。

「ふたりとも起きましたので、いきましょう」

「嫌だ」

 私がごねると、天使様が首を傾げた。

「……やっぱりダメって言われたのか」

 私は強く頷く。彼は泣く私の背中を優しく撫でてくれた。

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