戦闘狂の元魔王、貴族令嬢に転生し影の固有魔法で無双する。……学園の美少女たちの感情が重すぎるんだが!?

冷凍ピザ

第1話 魔法で転生したら令嬢になりました

 焦土と化した辺りには人間の死体が転がり、死屍累々の地獄が形作られていた。


「連合軍屈指の精鋭十数人を集めてもこの程度の戦力なのか」


 目の前に転がる死体に刺さった、炎のように鮮やかな橙の刀身をした剣を引き抜く。


「一方的な蹂躙は実につまらないな」


 敵を切り伏せる刹那の高揚、魔力が体を駆け巡る感覚。


 そんな心が動かされる戦闘に少しの幸福を感じていたが、それも長くは続かなかった。


 自分が力をつけ、相手との実力差が大きくなるほど、それに反比例して得られる幸福感や快感は減少して行った。


 勝利という結果が約束され、結果へと向かう過程ですら変わり映えのない作業のよう。


 それからはただひたすらに空虚な時間が流れた。


 そんな現状を打破するため、俺は1つの魔法を完成させた。


「やはり、これを試す他ないか」


 広げた右手に現れたのは、俺の赤黒い魔力の色に染まった5つの魔法陣。


 これらが相互に作用し合い、1つの魔法として効果を発揮する。


 その効果とは、魂の状態を保持し、肉体から引き剥がすというもの。


 俺はこれを使い新たな身体に転生する。


 この魔法で転生が成功するか証明するのは限りなく不可能に近いので、これがぶっつけ本番。失敗する可能性も大いにある。


 だが、それならそれで仕方ないと割り切っている。今の空虚で平坦な道をこれからも歩み続けるよりはマシだ。


 あわよくば新たな魔法や戦闘スタイル、そして全身にビリビリと来るくらいの緊張感がある戦いがしたい。

 

「静寂に満ちた終焉の果てに、我が魂は再び運命を紡ぐ。時を越え、理を超え、新たな芽吹きを――再誕之門リインカーネーション


 詠唱を終えて魔法が発動した瞬間、何かに引っ張られるような感覚と共に意識が遠のき始める。


 上手く行くといいな──


 ◇ ◇ ◇


「……」


 眠りから覚めるように俺は目を覚ます。


 魔法で意識を飛ばし、覚醒するこの瞬間までが一瞬の出来事に感じられた。


「雨が降っている……」


 俺は森の中に敷かれた石畳の道に寝転がっているらしい。


 顔に落ちる雨粒がぼんやりとした俺の意識をはっきりと覚醒させていく。


 ゆっくり上半身を起こした時、俺は自分の体の状態を認識した。


「満身創痍じゃないか」


 体のあちこちにレイピアが貫通したような傷が刻まれ、そこから流れ出した血が雨で滲んで赤い水溜まりが形成されている。


 せっかくの真っ白なドレスも多数の穴が空いた上に鮮血で赤く染め上げられ、もう捨てるしかない状態だった。


「……我が身に宿りし力よ、癒しの光となりて災いを負いし生命に再び輝きを──聖光サンクチュアリ


 俺が魔法を発動すると、全身の傷口を覆うように赤黒い魔力が輝き、瞬く間に傷が塞がった。


「転生には成功したようだが、まさかそれが新たな体ではなく他人の成長した体にとはな」


 先ほどの傷を見るに、体がほぼ死にかけた状態で元の持ち主の魂が抜け、代わりに俺の魂が入ったということだろうか。


 だが、体が死ぬ前に魂だけが抜け出るなどという現象は起こり得るのか。甚だ疑問だ。


「元の体の持ち主を襲った者が魂に干渉できたという可能性もあるか……」


 何にせよ、俺の思考だけで答えが出ることはないだろう。


 一旦立ち上がり、近くの大きな水溜まりを覗いてみる。


「これが今の俺か……」


 反射する水面に映るのは美しい深紅の瞳と、泥で汚れてしまってはいるが本来の美しさが容易に想像できる長い銀髪を兼ね備えた眉目秀麗な美少女だった。


 やはり俺はまだ状況を呑み込めないでいる。


 今の水溜まりまで歩いた数歩でも、前世の俺との体格差による違和感をひしひしと感じた。


 もちろん体格の違いも、魔族と魂の性質が似ている人間に転生する可能性も織り込み済みではあった。


 一体この体の持ち主に何があったのか、そもそもここはどこなのか、転生前からどれだけの年月が流れているのか。


「それも考えるだけ無駄か。とりあえず周りに何か無いか探してみよう」


 少し俺が倒れていた付近を歩いてみると、この体のものではなさそうな血痕と鋭く尖った木片を見つけた。


「この先に何かがある……」


 茂みをかき分けて森に入ってみると、その奥には横転した馬車があった。


 馬車を運転していた御者は俺と同じように体を貫かれた上で頭まで潰されており、2匹の馬は体を真っ二つにされて死に、馬車本体は屋根に当たる部分が吹き抜けになるほど破壊されている。


「酷い有様だな」


 この体が乗っていたであろう馬車は発見できたが、こんな高価そうなドレスを着ているということは貴族や王族だろう。


 護衛はついていなかったのだろうか。


「いや、護衛もしっかりついていたんだな」


 ふと上を見上げると、まるで洗濯物をかけるように、太い木の枝に鎧を着た男たちがぶら下げられている。


 その体にもまた、俺と同じ傷が刻まれていた。


「たった1人で護衛全員を殺したのか。そんな実力者、是非とも手合わせ願いたいものだ」


 まだ見ぬ強敵に思いを馳せていると、道の方か馬車の音が聞こえてきた。


 再び道路の方へ出てみると、30〜40代に見える腰に剣を差した貴族風の男と数人の護衛が馬車から離れて俺の血痕を見ていた。


 貴族風の男はこちらに気づいたらしく、血相を変えて駆け寄ってきた。


「ノエルッ!」


 この体の持ち主のものであろうノエルという名を叫び、俺を強く抱き締めた。


「妙に帰りが遅いから心配して来てみれば、こんなにボロボロになって……。一体何があったんだ!」


 言動からして、この男は体の元の持ち主──ノエルの父親か。


 ……どう答えようか。


 もし中身が違うのがバレたら俺が犯人だと疑われるかもしれない。


 戦闘に発展するならそれもまた良いが、流石にこの世界唯一の拠り所を失うのはマイナスの方が大きい。


「……それが、記憶が混濁していて何も思い出せないんです」


「私はお前の父、アレク・アストレイアだ。それは覚えているか?」


 俺は無言で首を横に振った。


「何だと……。と、とりあえず命があって良かった」


 アレクと名乗ったこの体の父親は俺の手を引き、共に馬車へと乗った。


「馬車を動かしてくれ! ノエルを連れて帰りたい!」


 現場の警戒をさせるために一旦護衛数人をその場に待機させ、馬車が走り始めた。

 


 

 

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