切れば良いのだ、何事も!
葛城2号
プロローグ
──拝啓、皆様いかがお過ごしでしょうか。
季節は夏休みが始まってすぐ、今年の猛暑も桁違いですが、今日はなんだかいつもより涼しい……そんな日でございます。
僕の名前は小山内ハチと言います。歳は16歳、高校1年生の男子でございます。
漢字で書くと、八。
そう、正確には、
末広がりという意味を込めて『八』と名付けられたらしいのですが、漢字で書くと小山内八。
自分で言うのもなんですけど、『おやま』とか、『こやま』とか、読んだりしませんか?
実際、けっこうな割合で苗字を『小山』と誤読されてしまいますし、その都度訂正したりするの、けっこう面倒臭いんですよね。
なので、契約書など公的なモノ以外では、ハチとカタカナで書くようにしているのです。
だから、気軽にハチと呼んでください。
まあ、漢字で書いても読みが変わるわけではないので、いったい何がどうという話ではありますが……さて、現実逃避はここまでにしましょう。
『あぁん……気持ちいい……』
『はぁ、はぁ、彩音……俺も、気持ちいいぞ』
『あぁん、嬉しい、もっとして……』
『はぁ、はぁ、はぁ……』
なんでいきなり現実逃避をしていたのかと言いますと、それはまあ……恋人兼幼馴染の
いや、遭遇というのは間違い。
正確には、今日は部活を休んでいるうえに、具合が悪いし暑くて出歩きたくないと話していた彩音の姿を、たまたま見掛けまして。
具合が悪いのにこの日差しの中、1人で……怪しいと思って追いかけた先で、ガッツリヨロシクやっていた、というだけですね。
場所はまあ、学校の敷地内とだけ。
ちょうど、外からは見えにくく、校舎内からも死角になっている場所でして……まさかね、とは思いましたけど、残念ながら、でした。
(……ん~、上級生か、部の先輩かナニカかな?)
相手の男に、見覚えはない。
ただ、うちの学校は上履き指定で学年ごとに色分けされているので、とりあえず、上級生なのは確認出来た。
そして、彩音……いや、もう、島田さんですかね。
向こうがどう思っているかは知りませんけど、もう僕たちはそういう間柄ではなくなりましたし。
最初はまあ、襲われているのかと思いましたけど。
なんだかんだ、幼稚園の頃からの付き合いでしたので、すぐに『あ、これは合意だな……』と納得した次第であります。
そりゃあねえ、島田さんは美人です。
けっこうやっかみを受けた事はありますし、一部の男子女子から『釣り合わない』とか言われたこともあります。
幼馴染の贔屓目を抜きに考えても、顔は良いです。スタイルだって良いですし、そういう事を妄想した事は一度ではないです。
小学生の時に島田さんの方から告白されて、それからなんだかんだ喧嘩もせずやってきましたけど……うん、まあ、アレだな。
思い返せば、兆候はけっこう前からあったなあ、と。
中学まではけっこうな頻度で一緒に帰っていたし、休日とかも一緒に遊びに行ったりもしていたけど、
もしくは、恋人と思っていたのは僕だけで、島田さんからしたら、ず~っと前から友達のつもりでしかなかったのかも……まあ、どっちでもいいか。
(仕方ないな、僕より向こうが魅力的だっただけだし……しゃーない、切り替えるかな)
と、僕はけっこうあっさり失恋を受け入れた。
失恋というのは、フッたりフラれたりの話ではない。
恋を失うことが、失恋なのだ。
未練を抱えた時点でそれはまだ失恋したわけではない。
恋とはどこまでも自分本位であり、自分の中から恋が失われたその時こそが失恋なのだ。
まあ、所詮はフラれた男の負け惜しみなんですけど。
薄情と言われるかもしれないけど、あっさり受け入れられる自分がちょっと不思議だったが、これもまあ性分なのだろうと僕は思った。
言っておくけど、ちゃんと悲しい。
とっても悲しいし、涙もじんわり滲んでくる。
でも、僕は昔から意地っ張りというやつで、未練たらたらに縋るぐらいならスパッと諦めて次に行け、という性分なのだ。
まあ、そんなわけで、だ。
僕は島田さんへの感情を振り切って、そっと……いざという時の証拠用としての録画ボタンを止めると、そ~っと……その場を後にした。
なんの、証拠用かって?
そんなの、こっちが浮気をしていたという濡れ衣を着させられた時のためだ。
と、言うのも、これは別の話だが、むかしに親戚のオジサンが浮気の濡れ衣を着させられ、離婚の騒ぎになった。
蓋を開けてみたら、実は妻の方が逆に浮気をしていて、慰謝料などを得るためにでっち上げた……という話だったが、酷いのはここから先。
その話はもう5年も前の話なのに、未だに『本当は、オジサンの方が浮気をしていたのでは?』と話をするやつがいるらしく。
結局、オジサンは務めていた会社を辞めて引っ越しまでした。
僕はそのオジサンとはけっこう仲が良くて、『証拠無しで男が悪いと決めつけているやつがとにかく多いので、用心しろ』と何度も忠告された。
オジサンと元妻は小学生の時からの幼馴染で、僕と同じく家がすぐ近くの間柄。そのうえ、告白して付き合う切っ掛けになったのは元妻の方から。
それなのに、浮気をした挙句でっち上げまでして、それを真実であるかのように周りに広めまくったらしいのだ。
オジサン曰く、『映像証拠が無かったらヤバかった、司法は基本的に女性の味方だから、音声入りの映像証拠が強いぞ』というわけらしい。
僕としても、だ。
血の涙を絞り出して言葉にしたかのようなオジサンの忠告を、ハイハイと聞き流せられず……しかし、まさか現実に行う日が来ようとは、というやつで。
「結局、キスもせず彼氏彼女解消か……ん?」
何処かから聞こえてくる、ミンミンと忙しいセミの鳴き声を背中に受けながら。
「キスもしていない……あ、じゃあ、完全に僕の思い込みじゃん」
にわかに、『一方的な思い込み説』の可能性が高まってゆくのを察した僕は。
「……ヨシ! 『ダンジョン』で憂さを晴らそう!!」
心機一転するために、ダンジョンへと向かうので……ん?
……。
……。
…………『ダンジョン』とは、なにかって?
それはまあ語ると長くなるので省略するが、要点だけをまとめると、だ。
換金できる資源が手に入り。
中学生以上ならば、自己責任で入る事が可能で。
第二次世界大戦を終結させるキッカケとなり。
今では、隙間時間を使って内職代わりに働く。
そんな、世知辛い場所……それが、『ダンジョン』なので──ん?
……。
……。
…………なんで、世知辛いのかって?
それは、また次の機会に、次の話まで御機嫌よう!
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